2019年05月29日

3402話 あやかしの道


 滝井の宿を出てしばらく行くと枝道がある。街道には多くの道が入り込んでいる。小さな川が大きな川と合流するように。だから、珍しくも何ともないのだが、この街道を始終行き来している犬吉が知らない道。行商人なので村々をよく知っている。どの村も本街道へ出る道があるのだが、その枝道の先に村などない。あれば商いで入り込むだろう。
 またあるはずの道標もない。だから村へと繋がる道ではなく、山から下りてきた道かもしれない。
 犬吉はこの街道に詳しいといっても全ての枝道を知っているわけではない。主に村を巡る道筋を知っているだけ。だからどの方向にどんな村があるのは熟知している。
「これはもしかして」
 犬吉のように地形に詳しい人間だからこそ、そう感じる。始めてそこを通る人なら、ただの枝道として素通りするだろう。いくらでも街道と交差する道があるのだから。
 それが何処と繋がっているのかは知らなくてもいい。用があれば別だが。
「あやかしの道」
 犬吉はそう結論を下した。しかし、新田でもできて、新しい村がその先にあるのかもしれない。それならいい商売になる。
 さて、どちらを選ぶか。
 第一印象のカンではあやかしの道。これは入ってはいけない道で、そんな道など本当は存在しない。狐か狸が仕込んだ罠なのだ。
 だが、噂では聞いたことはあるが、化かされた経験は犬吉にはない。狐や狸と犬との相性の問題ではないが。
 それで、枝道をもう一度見た。今度は地面だ。新道ならそれとなく分かる。ここを通ったのは数ヶ月前。そのときはなかった。
 地面は轍の跡もなく、路肩に盛り上がりや、癖もない。既に枯れた草や葉っぱなどが溜まっているはずだが、それもない。どう見ても最近できた道。
 やはり新田ができたのだろう。山はなだらかで、斜面も緩い。まだ開墾できるようなところがあるような場所。しかし、どうもこの道は臭い。綺麗すぎるのだ。
 新村なら早く行って先に得意先にすべきだ。別の商人が取ってしまう。
 犬吉はそちらの方を重視し、まやかしの道である可能性を捨てた。
 そして新道に入り込んだのだが、いくら歩いても村になど出ない。それにこの枝道の枝道もない。さらに進むが道だけがある。
 よくならされた綺麗な道なのだが、それが何処までも何処までも続いている。
 犬吉は怖くなってきて、尻尾を巻いて引き返した。
 
   了
 


posted by 川崎ゆきお at 11:29| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする