2019年07月07日

3441話 再開


 最下層に落ちたが、再開することにしたようだ。「辞めるのではないのですか」
「休んでいただけ。死んだふりをしていただけ。そういう虫がいるだろ」
「でも、再開しても、無駄ですよ」
「休憩している間、いろいろ考えたのだがね。他にすることがない。思い付かない。それで、再開することにした」
「それは結構ですが、先が」
「いや、この最下層の下はない」
「はあ」
「これ以上落ちない。不動の安定した層なんだ」
「そうなんですか」
「意外とこれがいい。安心だ」
「いやいや、この層にいることが問題なんですよ。安心どころから一番駄目な層なんですから」
「そうとも言えるが、考え方次第」
「低い層でもかまいませんが、以前のように、その中でも中頃にいました。中層や高層は無理でしたが、下層の中程。これはやっていける層です。そこから落ちると、もう成り立ちにいくどころか、成立しません」
「あ、そう」
「だから辞めていたのでしょ」
「いや、休憩だ」
「休憩中、何を考えていたのですか」
「再開についてだ」
「ここまで落ちると、もう諦めなさいということです」
「通常はね。しかし、発想の逆転だ」
「ただの無能です。無茶です。発想にも当たりません」
「まあ、そういいなさんな、他にすることもないでしょ。君も暇でしょ」
「まあ、そうですが」
「だったら、何かをやっていたほうがいい。それで再開に踏み切った」
「あのう」
「何かね」
「最下層にいることそのことが恥なんです」
「あ、そう」
「いたたまれませんよ。だから辞められたのでしょ」
「休んでいただけ」
「いや、やはりショックで、倒れていたようなものですよ。休憩じゃなく」
「まあ、そうなんだがね」
「じゃ、どういう了見なのです」
「いや、最下層がいいような」
「よくありません」
「今後は上を目指さない」
「あのう、この最下層は、上にいくためにあるのです。ここはとどまる場所じゃありません」
「いいじゃないか。この最下層を堅持し、ここを拠点にする」
「何か悪い本、読みましたか」
「読んでいない」
「知恵を絞りましたか」
「絞った」
「愚です。再開するのは」
「誰も選ばない」
「当然です」
「そこが盲点なんだ」
「はあ」
「最下層で花を咲かせる」
「陽が当たりませんから、咲くでしょうかねえ」
「日影の花というのもある。直射日光に当たらなくても間接光が来ている」
「はい、そこまで言われるのなら、やりましょう」
「よし、やろう」
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 11:19| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする