2019年07月13日

3447話 簡単なもの


「簡略化ですか?」
「そうだ。簡単にしようと」
「今でも結構規模を小さくしていますよ」
「もっとだ」
「これ以上減らすと、もうやっていないような」
「もうやめてもいいんだがね。それじゃ寂しいだろ。だからまだやってます程度の規模でいいんだ」
「分かりました。しかし盛り返した場合、困りますよ」
「その心配はないし、私ももうやる気はない」
「じゃ、どの程度まで落とします」
「最低限まで」
「じゃ、かなりの省略になりますが、かえって手間がかかるかもしれませんよ」
「ゆっくりでいい」
「はい」
「規模縮小。これがいい」
「はい」
 ところが簡略化し、規模も落としてから、急に流行りだした。
「注文が来てます」
「何だろう。苦情か」
「依頼です」
「その注文か」
「どうしたのでしょうねえ」
「分からん。間に合うか」
「簡略化しましたから、大丈夫です」
 さらに依頼が続いた。
「不思議だねえ。いわば手を抜いてから流行りだした」
「粗悪品ギリギリですよ。しかも設備を減らしましたので、ばらつきも多いです」
「何だろう。やる気をなくてからこの祭り騒ぎは」
「そこまで賑やかじゃありませんが。注文が殺到しています。また機械を入れましょう。これじゃ間に合わない」
「急げ急げ、急げ幌馬車」
 しかし、以前と同じ設備に戻し、丁寧で精度の高いものを作り出した瞬間、注文がガクッと減った。
「何だろうねえ」
「分かりません」
 依頼が減ったので、また簡略化した。
 するとまた依頼が来始めた。
「やはり簡略化だ。簡単なものが好まれたんだ」
「まるで夢のようですねえ」
「夢だ」
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 10:38| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする