2019年08月22日

3487話 八幡の藪屋敷


 八幡の藪屋敷と呼ばれている家がある。屋敷というほどには立派なものではないが、結構大きい。二階はないが屋根は高い。これは屋根裏部屋があるはずだが、明かり窓程度なので物置だろうか。農家ではないが、周辺は農家がまだ残っている。
 村落時代、農家ではない家も混ざっていたのだろう。商家かもしれない。
 八幡の藪屋敷とは、このあたりにある鎮守の森ほどの樹木に囲まれているためだろう。八幡さんが祭られている。ただ、神木とかではなく、雑木林で、高い木はなく、低木が多い。それらが密生した藪。
 だから表からは家が見えないほど。ただ家があることは分かっている。だから藪屋敷と呼ばれている。
 単純にいえば神社のように森に囲まれた中に建っている家。
 藪の手入れはほとんどされていないようで、実際には庭木なのだが、表口もそれで塞がれている。当然母屋は蔓草で覆われているかしょもあるが、そこだけは何とか防いでいるようで、根元から切られた蔓が枯れてロープのように垂れ下がったり、地面を這っていたりする。ただ、電線は宙にあるものだが。
 子供達にとり、そこは絶好の冒険場所。道沿いに土塀はあるが、壊れて切れているところが多い。そこから中に入れそうなものだが、実際には灌木が垣根のように密生しているので、隙間がない。しかも庭は広く、密林も深い。というより分厚い。生け垣の比ではない。
 しかし、冒険者達は何度もアタックし、ときには枝をへし折り、母屋へ出る道を開拓しているようだ。これは遊びとしては面白い。
 当然一日では抜けられないので、道造りで日々を過ごす。まるでトンネルでも掘っているようなもの。
 誰も住んでいないから、そんなことができるのだが、管理している人はいる。村の人で、子供達もたまに顔を見かける農家の人。しかし、その農家の家ではない。
 元々農家ではなかった家なので、毛色の変わった人の家だったようだ。古い農家がまだ残っているような町なので、その時代のものだが、そろそろ建て替えないといけない頃になっている。修繕だけでも大変だろうが、この藪屋敷はそのまま放置されているため、建った当時のまま。
 道沿いに門があるが、当然閉まっている。そして土塀と藪で入る隙間がない。門の隙間から覗くと、石畳が伸びているが、ほとんど雑草で覆われている。そして母屋の玄関口当たりは横から伸びてきた樹木で見えない。また、種が落ちたのか、通路に木が生えている。
 裏口はあるが、隣接する農家との隙間の路地は塞がれており、裏へ回れない。
 藪屋敷の裏側にも当然庭があり、そこはもう一軒隣接する大きな農家の庭と面している。ここからなら藪屋敷の母屋の屋根の一部が見えたりする。
 だが、そこから入り込めないのは、管理しているのがこの農家のためだ。だから子供達はそこからは攻められない。
 母屋まで藪に道を付けていた子供が、ついに縁側が見えるところまで辿り着いた。しかし、縁側より先に、そこに赤いものを見た。
 真っ赤なおべべを着た女の子が座っていたのだ。
 子供は悲鳴を上げながら戻った。
 今も残っている怪談と言えば、これだけで、それ以外には不思議な話は伝わっていない。
 藪に道を付けていたことは確かだが、本当にそこまで辿り着けたのかどうかは怪しい話。
 そして今は、そんな八幡の藪屋敷などは当然、ない。駐車場になっている。
 
   了

 
posted by 川崎ゆきお at 11:41| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする