2019年09月12日

3508話 熱い人


「まだ暑いねえ」
「残暑というやつですよ」
「いや、君だよ」
「え」
「まだ熱いといっている」
「いえいえ、暑苦しくて済みません」
「まだ、その情熱がある。少しは分けて欲しい」
「いえいえ先生は既に大成された方」
「だからもう燃えなくてもいいわけか」
「もうやりたいことはやり倒したのじゃないですか。探すのが難しいほど」
「そうだね。色々なことに挑戦したねえ。一つのことが何とか成功すると、次は別のことへとね。まあ、いずれも関連性があるのでね」
「どれが本職が分からないほどでしたよ。どの道でも凄い人でした」
「過去形だね」
「いえいえ。今も現役で活躍されているわけですから、過去の人ではありません」
「しかし、つまらんねえ。あまり燃えない」
「燃やしすぎたからでしょ」
「じゃ、今は燃えかすかね」
「いえいえ」
「ところで、君の用件だが、紹介だけでいいんだね。何か直接口添えしようか」
「いえ、先生からの紹介だけで」
「まあ、メモ程度渡すよ。本当に私が紹介したことがこれで分かるだろ」
「それは有り難いです」
「紹介状を書いてもいいだけどね」
「そこまでして頂かなくても。お忙しいのに」
「そうなんだ。忙しいんだ」
「まだまだ現役ですねえ」
「以前やった仕事の整理とか、また次に出す本の準備とか、資料とかを集めないといけないんだ。スタッフがいてもね。やっぱり私が直接見ないと、こればかりは人任せにできない」
「今までの仕事は膨大な数になりますねえ」
「データ化したいんだ」
「ああ、なるほど」
「ところで、君は大成しなかったようだが」
「師匠を超えられない弟子です。しかし先生を超える弟子などいませんからね」
「岸田君はやり手だ。いい人に目を付けたね」
「今度は岸田さん経由で、仕事を入れたいと思いまして」
「じゃ、そうなるように、メモに書いておくよ」
「有り難うございます」
「しかし、君も年を取ったねえ」
「いえいえ」
「早く大成してくれよ」
「はい、先生の弟子は多いのですが」
「そうなんだ。誰も何ともならん」
「先生が偉すぎるからです」
「その話はいい。私は時期がよかっただけだ。君ら弟子達はそのあとの世代。もう美味しいものは残っていなかったからね」
「いえいえ、まだまだ頑張ってみます」
「まあ、まだその情熱があるうちは大丈夫だ。頑張ってくれ、その熱さ、その情熱が羨ましい」
「いえいえ、尻に火が点いて熱いだけです。生活費を稼がないと思いまして、それだけですよ」
「そうか」
「はい」
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 11:30| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする