2019年09月28日

3524話 古い農家が残る村


 何度か通った覚えのある通り。別にその道を通らなくてもいいのだが、ついつい入り込んでしまう。それは下田が自転車で走っているときだ。散歩のようなもので、一寸したサイクリングだが、街中を練り走る程度。市街地を見て歩くには自転車が都合がいい。遠目で見ているこんもりとした森などは神社か寺か公園なのだが徒歩だと寄りにくい。時間の取り方の問題で、行っても見るべきものがなければ無駄足を踏むことになる。
 これが車では一方通行などがあるし、曲がりにくい交差点もある。
 下田はその日は高木神社を目指していたのだが、これはただの目標で、別にその神社へ行きたいわけではない。そこへ至るまでの道沿いを見て回るのが目的。場合によっては高木神社に入らなくてもいい。
 吉村という村がある。吉村村ではなく吉村。だから縁起のいい「吉」の村だろうか。高木神社まであともう少しのところにそれがある。その吉村の横に島村がある。これも島村村ではなく「島」という村だ。これは珍しい。海や湖に浮かぶ島の島だが、実際には当て字だろう。神社には志摩と書かれているのだが、どうしたことか、これを島にしたのだが、志摩も当て字で、「シマ」と呼ばれていた土地らしい。やくざの縄張りのシマかもしれないが、固有の地名にならないので、これも違うだろう。村という名の村がないように。
 高木神社へ行く前にこの二つの村を見て回るのがコースになっている。下田が勝手に作ったコースで、二年以上行かないことある。だからよく行くコースではないので、たまに入り込むと以前と少しだけ違っており、年々村落時代の遺物のようなものが消えている。大きな樹木も伐採されていたりする。枯れかかっているとか、電線と接触するとか、落ち葉が面倒とか、色々とあるのだろう。落葉どころか、落木もある。枝ごと落ちたりする。
 この二つの村にも神社があり、大きな木があるが、流石にそれらは伐られないで残っている。
 吉村を一巡し、そこを抜けると町工場があり、殺風景な場所に出るのだが、その先に島村がある。それも無事見学するが、以前の記憶がどれだけあるかを試しているようなもの。
 二つの村にはそれぞれ神社があるが、似たような造りで、境内もそっくり。合わせてあるのだろう。
 この二つの村を抜け、方角を北に変えて直進すると目的地の高木神社に出る。そこはちょっとした市街地で、それなりに賑やか。昔から町屋などがあった場所だろう。
 その道を進んでいるとき、こんもりしたものが見えてきた。どうも神社らしいし、農家なども遠目に見える。道を間違えて、島村からまた吉村に戻ってしまったのかと思ったのだが、北へ向かっているのは太陽の位置で分かる。
 そして近付いていくと、田畑が見てきた。もうこのあたりは田んぼなどやっている農家などいないはず。それに工場や分譲住宅や、小さい目のマンションなどで田んぼのあとは埋まっている。それに高木神社へ行くに従いもっと開けてきて、賑やかになるはず。それが逆方角の田舎っぽい所がまだ残っている側へ行くような感じになっている。
 田んぼを抜けると、農家や小屋や、石垣などが見える。流石に茅葺きの屋根などないが、形は同じで、トタン葺きになっていたりする。以前は茅葺きだったのだろう。こんなものがあれば覚えているはずなのだが、記憶にない。
 田んぼを抜けると石垣が続き、村の道に入る。
 村というよりも宿場町のメイン通りのようなところ。意外と道が広い。
 島村も吉村もそうだが、残っている農家などほとんどない。しかし、ここはかなり残っている。
 高木神社の近くだ。通り道だ。こんな村があるのなら既に探検している。まさか新しくできた村ではあるまい。しかもより古い村が新しくできたようなもの。
 そして、よく見ると、電柱も車もない。綺麗な道だが、舗装されていない。
「というような村に迷い込むのを期待しているんだ」
「下田君、それは妄想だよ」
「そうだね」
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 11:54| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする