2019年10月06日

3532話 不思議な話が残る村


 小倉村から先は辺境に入る。小倉村そのものも片田舎にあるのだが、それなりに平地がある。盆地だ。古くから開けていた場所なので、田舎だがそれなりの文化も育っている。ただ、中央から見れば草深い田舎。実際、草の丈は長いようだ。
 小倉村には様々な伝承があるが、その中でも怪異談が豊富。小倉村の先は何もない山々が続き、村落はない。ただ、僅かながらも平らな場所もあるのだが、敢えてそこには村を作らない。山の神の土地だと言われているためだが、奥山とはそんなものだ。そこから神が漏れてくるわけではないが、御山の入口あたりで色々な話が残っている。
 当然村内にも数え切れないほどの怖い話や、気味の悪い話、また妙な現象についての言い伝えもある。当然楽しい話、愉快な話もあるにはある。要するにそういった昔話の宝庫。だから怪異談の数も多い。決して怪異談だけが伝わっている村ではない。
 ここを調査した人は結構いる。ほとんどが口承で、口から口へ耳から耳へ、それをまた誰かに伝えるというもの。
 当然書き留めた人もいるが、数は少なく、口承のほうが圧倒的に多い。
 最近になって、一人の研究家が、そこを訪れた。既に調査され尽くし、聞き取りなどはもう既に終わっており、それを聞いたとしても、既に初めて聞く話ではない。
 本田というその学者は、いつ頃からの話が多いかを調べた。すると平安時代までは遡らないようで、鎌倉時代の中頃からの話が多い。当然この村の歴史は古いので、さらに昔の話も伝わっているはずだが、それはない。
 さて、細かい話は抜いて、本田が調べた結果を話そう。
 鎌倉時代に入るまで、このあたりは中央とは切れていた。その頃流れてきた人がいる。流浪の語り部らしく、琵琶法師のようなもの。ただ、楽器は使えない。だから一席設けて、そこで話して金銭を得ていた。勧進坊主のようなもの。
 怪異談のほとんどは、この男の創作らしい。本田が調べたのは、この男の消息だが、ほとんど分かっていない。
 この男の話を聞いた村人が、他の村人に伝えだした。不思議な話なので、人に喋りたくなったため。
 そこには山の神や鬼や、河童や狸や、馴染み深いものが登場してくる。
 先に話ありきで、フィクションが先なのだ。
 それを村人から村人へ、そして、その子から孫へと話しているうちに、フィクションであることを忘れたのだろう。
 その後、そういう異変がよく起こり、不思議な現象、山から天狗が下りてきたとか。川で河童を見たとかが続いた。
 河童が先にいるのではなく、河童の話が先にあるのだ。それから河童が出るようになった。
 本田は鎌倉の中頃に来たその漂泊者を調べたが、手掛かりは何もない。あるのは、そういう人が村に来て、不思議な話を聞かせてくれた程度のもので、これは書きもので残っている。しかし、その後まったく忘れ去られた。
 こいつが原作者なのだ。
 その後、本物の異変が起こり、妖怪変化がうじゃうじゃいる地方になった。
 これこそ不思議な話だ。
 
   了
 


posted by 川崎ゆきお at 12:03| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする