2019年11月12日

3569話 水鳴り


 ポタンポタンと音がする。夜中だ。昼間なら聞こえないだろう。水滴が落ちる音だ。栓をしっかり閉じていなかったのかもしれないと思い、増岡は台所の蛇口を見たが、そこからではない。あとは浴室や洗面所だが、それも異常はない。古い家だが雨漏りはしない。それに雨など降っていない。
 ただ、前日降ったのは確か、そのときの音に似ている。屋根からの音ではなく、屋根瓦などから下に落ちるまでの間にする音。
 また、屋根から地面までに流れ落ちるとき、何処かで溜まってしまうのか、雨がやんでも、ずっと音がしている。その場所は突き止めていないが、ただの地面なら聞こえないはず。もっと響くようなところに落ちる音。
 二階の屋根、その庇、また結構入り組んでおり、真上から見ないと、どういう状態になっているのか、分かりにくい。二階の窓からそれなりに下は見えるのだが、上は見えない。別にそんなものを探し出す必要はないし、いつもする雨垂れの音なので、気にはしていないが。樋の何処かが割れている程度に思えば済むことだ。
 借家なので、大家に言えば修理してくれるだろう。これが自分の家なら、身体の一部のように思うかもしれない。余程古くなれば、引っ越せばいい。借りているだけなので。
 天井裏の忍者を主人が槍で突き刺し、そこから血が滴り出すシーンを増岡は思い出した。
 音のする方角は分からない。これはとんでもない方角違いなところから発していることもあるからだ。屋外だとすれば、窓とか、隙間が空いているところから音が聞こえやすい。
 しかし二階と一階の隙間がどうも怪しい。そこに虫か動物でも入り込んでいるのだろうか。それにしてもポタンポタンと一定の間隔を置いた音なので、生き物ではないような気がする。一番近いのは蛇口から落ちる音だ。まさか心臓だけのフランケンシュタインの音ではあるまい。
 それで、増岡は台所の蛇口を少し開け、滴がポタリと落ちるようにした。しかし、その音ではない。下はステンレスなので、甲高い。
 それでトイレや風呂場、洗面所などで確かめたが、音が小さすぎたり、低すぎたりし、あのポタンポタンという響きではない。
 そして、この音は雨の日に耳にすることがある。やはり外だろう。
 前日降った雨水が下まで行かないで、何処かで溜まっているのかもしれない。
 翌朝になると、もう外の音が色々とするので、あのポタンポタンは聞こえない。そして夜になり、静かになったとき、耳を澄ませて聞いていたが、もうポタンポタンの音はしない。
 そういうことに詳しい人に聞くと、それは家鳴りのひとつで水鳴りと言うらしい。
 
    了



posted by 川崎ゆきお at 11:10| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする