2020年01月14日

3631話 探梅


 世の中には暇な人がいる。まだ真冬前のことだが、梅を探して歩く人がいる。探梅家と言われている。家が付くが専門家ではない。また家が付くがそれで食べている人でもない。
 探梅でどうやって食べていけるのか。これが俳人で、探梅を楽しむ人なら分かるが、それでも俳句で食べていける人など限られているだろう。
 梅原という人がその探梅家だが、早咲きの梅はいいのだが、僅かな期間だ。梅が咲けば桜が咲き出す。寒梅系はよく見かける梅ではない。また、花びらだけでは分からない。それが梅なのかどうかも。
 寒梅家がいたとしても極めて短い期間しか活躍しないだろう。
 梅原氏は暇ではないのだが、紅葉狩りの次は寒椿、そして寒梅へと進む。だから季節ごとに違うので、そのことだけの人ではない。そのため、専門性は低い。これが寒梅だけを目当てにしているのなら、いいのだが。
 梅原氏が早咲きの梅に注目したのは、探梅という言い方による。これは探検、探索だ。探偵になって梅を探し歩く。ここに、何か浮き世離れした境地を見たのだ。そんな浮き世離れネタなら探せばいくらでもあるだろうが、桜よりも梅の好きな梅原氏は、そちらに走った。それに桜よりも早く咲くため。
 この寒梅を探しに野山に行くのではなく、住宅地を歩き回っている。意外と人の家の庭に咲いているたりするものだ。
 これは庭木趣味のある人がよくやる手で、珍しいのを植えるため。まあ、展示品を見ているようなもの。また自然豊かな野山へ行くよりも、花の種類は住宅地の方が多い。もの凄い種類がある。だから寒梅も見付けやすい。
 さらに住宅地の庭ではなく、一寸した施設の植え込みとか、神社の境内の裏側の繁みとかにも変わったものが咲いている。これも自然に生えたものではなく、植えたものだが。
 探梅は難しくない。ウロウロしておれば偶然見付かる。昨年見付けたものもあるので、これはバックナンバーを見るような感じで、とりあえず発見することはできるが、やはり新しく探し当てたものを見たときの感動の方が大きいので、探し回る。
 趣味は趣味を呼ぶ。まあ、おまけのようなものだが、梅を探して入り込んだ町で偶然見付けた神社とか、祠とか。また非常に凝った造りの喫茶店とか、妙な建て方の前衛的な家とか、草の塊のような家とか。また、子供相手の安いお好み焼き屋とかもあり、言い出すときりがない。梅など何処かへいってしまうほど。
 要するに梅が目的なのだが、そういったものを見ることで、梅が見付からなくても、それなりの探索、散策になる。まあ、散歩だが。
 ある寒い頃、偶然入った潰れがけの市場の中で生き残っていた肉屋で食べた揚げたてのコロッケ。唇が火傷しそうだが、胃の中に入った瞬間、冷えた体がほっとした。
 これはこれで探梅家としての冒険談でもある。別にアツアツのコロッケを食べたのが冒険ではないが、そういう市場を見付けて、薄暗いアーケードの中に入り込む勇気が冒険のようなもの。人跡未踏に近い洞窟なので。
 それで、肝心の早咲きの梅だが、見付からない年もある。しかし、探梅という目的がなければ、見知らぬ町をうろつくことはないはず。それができるのは探梅があるため。
 当然だが、早咲きの梅を見ても、特に凄いことがあるわけではない。
 だが、水を差すようだが、花屋へ行けば売っていたりする。花道や茶道で使われるためだろう。
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 11:22| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする