2020年01月20日

3637話 連判状


「元気でされてますか」
「何を」
「だから、元気で、色々と日々成されていますか」
「別に何もしておらんが」
「何かされているでしょ」
「寝て起きてだ」
「だから、その間、何かされているでしょ」
「ご飯は食べる。そんなこといちいち言う必要はなかろう」
「じゃ、お元気でお過ごしで」
「風邪っぽい」
「あ、それはいけませんなあ」
「だから、元気で過ごしておらん」
「寝ていなくても大丈夫ですか」
「軽いのでいいが、怠い」
「それは安静にしておられるのがよろしいかと」
「そうだな」
「ところで」
「来たな」
「まだ、まだ何も言ってませんが」
「何か言いに来たのだろ」
「仰る通り、少し頼み事がありまして」
「風邪っぽい」
「はいはい」
「聞いておらなんだのか」
「聞いていました」
「そんなとき頼み事をするか」
「軽い風邪なら、軽い頼み事程度なら、できると思いまして」
「しかし、安静にしておいた方がよかろうと先ほど言ったではないか。安静状態でもできることか」
「はい、ここに連名を」
「連名」
「何の」
「連判状です」
「それなら名前を書くだけではすまんだろ。血判もいるだろう」
「恐れながら」
「傷口から何か入ればどうなる」
「軽く、ちょっと」
「抵抗力が落ちておる」
「じゃ、血判はいりません」
「いらぬのなら、最初から言うな」
「では、この連判状の最後に、御名前を」
「全員血判を押しておるではないか」
「締めの人はよろしいかと」
「最後に名を連ねる人のことか」
「そうです。この連判状を見て、了解したという程度で結構ですので」
「参加せずともいいのか」
「はい、これで、連判状の締めになります。あなたしか、この締め役はいません」
「分かった。それで、何の連判状だ」
「それは言えません」
「物騒な。何か事を起こすのであろう。失敗すればわしも連座したとみなされ、処罰されるかもしれん」
「いえ、これは脅しの連判状なので、実際には何かをするわけではありません」
「事は起こさぬとな」
「はい」
「それで、その連判状、何処で使う」
「これは仲間内で確認するもので、誰かに見せたりするものではありません」
「連帯のための、連判状か」
「はい」
「少し見てもいいか。誰の名があるのか、見たい」
「当然です。確認して下さい。同志です」
「花村もいるのか」
「はい」
「人選は確かか」
「はい」
「花村がいるのは何かおかしい」
「誰でもいいのです」
「そうなのか」
「木下もおるぞ。あれも参加しておるのか」
「はい」
「それもまた誰でもいいということでか」
「さようで」
「要するに、あまりいいやつはおらんのう」
「はい」
「まあ、いい」
「はい」
「しかし、この連判状。目的が書かれておらん」
「汎用性を考えまして」
「まあいい」
 この連判状、結局使われることなく、長い眠りに入った。
 その眠りを覚ますようにある旧家から出てきたのだが、一人だけ血印らしきあとがないものが確認された。
 血判を押し忘れたのではないかと、解釈された。価値としては低いし、歴史にも関わらないが、実在する連判状としての値打ちはある。
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 12:03| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする