2020年02月07日

3655話 偽霊能者


 宮脇霊水。霊能者だ。まだ若い女性。プロレスではないが得意技は千里眼。透視だが、最短距離は数センチ先、最長距離は海外に達するので、これは遠視。ただ、望遠鏡のように被写体は具象ではない。抽象的な映像以前の何か。
 そのため、壺の中の采の目が読めるわけではない。主に人の心の深淵部をスキャンする。これはある意味で安全地帯。非常に曖昧なため。
 千里眼といっても、千里先にある物体が見えるわけではなく、そこにいる人の心が読める。
 宮脇霊水は売り出し中の霊能者だが、そのメディアは雑誌。
 その雑誌の編集者が妖怪博士を訪ねてきた。その女性を連れて。
 妖怪博士担当の編集者で、その雑誌にも関わっているが、宮脇霊水の担当ではない。別の編集者が見出し、育てている。
 その宮脇霊水が妖怪博士担当の編集者に悩みを打ち明けた。それで、妖怪博士の下に連れてきた。
 妖怪博士もその雑誌で連載しているので、毎月、それなりに読んでいる。それで宮脇霊水についても知っていた。
「宮脇ではなく、霊が沸く宮沸と付けたかったのではありませんか」妖怪博士はそう切り出したが、違うようで、宮脇は本名で、霊水は自分で考えた名らしい。宮の脇という方がいいし、それに本名なので、これを気に入っているので、そこは変えなかった。だが宮脇とは、お宮に関係している家柄だろう。巫女の家系、または朝廷関連かもしれない。
「妖怪博士、彼女、悩みがあるらしくて」
「そうですか。それはそれは」
 宮脇霊水は、自分は偽物の霊能者だと言った。そんな力はないと。
 妖怪博士は普通に聞いている。それで普通だろう。だから、普通のことを普通に言っているので、普通に聞いていた。
「それで、霊能者をやめたいそうです」
「そんなことなら、私に相談に来る必要はないじゃろ。そう決めたのだから」
「売りだそうとしているのは編集長でして」
「じゃ、編集長に言えばいい。または、君が伝えてやれば済む話」
「そうなんですが、多少は未練があるようです。霊能者に憧れていたようなので」
「しかし、その力が無いのなら、やめる方がいい。ためらうことはない。なんなら私が編集長に言ってやろうか」
「その前に、本当に超能力があるのか、ないのか、博士に確かめて欲しいとか。もしあるのなら、続けるとか」
「人の心が読めるのじゃろ」
「はい、彼女の得意技です」
「じゃ、それで私の心も、その編集長の心も読めるはず」
「ところが、相手の心は読めるのですが、意識内の心ではなく、意識外の心だそうです。ですから、相手が何を考えているのかは分かりません」
「また、面倒な設定をしたものだなあ」
「設定でしょうか。彼女が、そう言っているだけでして、編集長が作ったものじゃありません」
「じゃ、私の潜在意識を読んでもらえますかな」
 すると、彼女は、それはインチキスキャンで、本当はそんなものは読めないと言った。読めたとしてもスキャンしたものは真っ黒だろうと。
「しかし、いつも、それをやっておられるのでしょ」と聞くと。適当に喋っているとか。しかし、それが偶然相手の心の底に触れたようで、相手の反応がかなり変わるらしい。当たっているのだ。
「どなた様にも当てはまる共通するような心の底というのがあるものです。心の底に釣り針を沈めれば、引っかかるもの。それに本人がインチキだと言っておられるのでしょ。そんな力はないと」
「何か、調べようがありませんか」
「上手いところを突いてきておる」
「はい」
「私には調べようがないし、何ともならん」
「じゃ、彼女、どうすればいいのでしょう」
「ご本人はやめたいと言っておるのでしょ。じゃ、やめるのがいい。偽霊能者なのですからな」
「だから、博士、偽かどうかは、本人が言っているだけで、周りは本物だと思っています」
 妖怪博士はその深層千里眼を実行中の疲労度を宮脇霊水に聞いてみた。すると、疲れないらしい。それこそ、何の力も使わないため。
 では、出鱈目だとしても、どうしてそういう言葉が出るのかと聞いてみる。
 すると、何となく、物語を思いつき、ペラペラ喋るらしい。ただ、普段は無口で、人前で話すのは苦手なようだ。
「霊能者はいずれ化けの皮を剥がされる。そういう風にできておる。彼女も、そのときがくるのを恐れているのではないのか。盛り上げるだけ盛り上げ、どっと落とす。それが怖いのじゃろ」
 宮脇霊水は少し表情を変えた。
「本物であるというより、偽物だと宣言した方が、安心感があるのかもしれませんなあ」
「じゃ、博士、本物の霊能者が身を守るため、偽物を演じているというのですか」
「本物か偽物か、よく分からん世界じゃ。偽の方が本物を超えておる場合もある。それに本物はもっと地味な能力しか無かったりするしな。しかし、その程度の能力なら、誰でも少しは持っておるだろ」
「はあ、何か話がややこしくなりました。彼女の悩みは、やめたいが、やめるのも、また淋しいということです。さて、そこで、博士の一言で、決めたいと」
「じゃ、続けなさい」
「はい、これで決定です。彼女もそれで迷いなく偽霊能者、偽超能力者を続けられるでしょう」
 帰る間際、宮脇霊水は妖怪博士に一礼したが、その目が少しだけ大きくなった。片目だけ。
 妖怪博士の心は、既に来る前から読まれていたのかもしれない。
 本物は信用しないが、偽物なら信用するというおかしな展開になり、宮脇霊水は、その後も活躍を続けた。
 妖怪博士は、いつか妖怪探しのとき、彼女の力を借りるつもりでいる。ただし、妖怪も妖怪ハンターも両方とも偽物だが。
 
   了





posted by 川崎ゆきお at 12:45| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする