2020年03月23日

3698話 偽装


 やっと来た春だが、西田は調子が悪い。これは体調だ。いつもの感じではないので、大人しくしているしかない。
 窓から外を見ると、建物の隙間から青空が見える。眩しいほど明るい。気温も上昇し、いい天気だ。
 急に暖かくなったので、体調を崩したのかもしれない。そういえば薄着だった。暑いほどだと思っていたのだが、夕方になると冷えだした。晴れている日は朝夕が寒いのだろう。
 その翌朝から調子が悪くなったので、用心して部屋でも着込んだ。
 寝込むほどではなく、いつもの用事をいつも通りこなしているとき、これも悪くないと感じた。少しスローペースになり、ゆっくり目だが、それがゆったりとしていると思えるので、悪いことではない。体調は悪いが、スローな動き方がいい。それに気付いたのは調子が悪いためで、いいこともある。新発見だ。
 西田はせかせかと忙しそうに動く癖がある。それほど急がなくてもいいことでも、さっさとやる。これは人に見られているので、ポーズのようなもの。仕事のできる人のように振る舞っていたのだが、実際には効率の悪いやり方をするので、急がないとできない。だからできる人は忙しそうにしないのかもしれない。
 しかし、西田はその癖がついてしまい、何事においてもさっさとやるタイプになっていた。またこれはのろまな面を隠すためだろう。本当はおっとり型で、のんびり屋さんなのだ。それを隠すための偽装なのだが、偽装が本物になっている。
 体調が悪いときとか、元気のないときに、その地金が出るようで、これが西田の本来の姿。
 社会に出ると、いろいろと創意工夫が必要で、別人のようになることがある。西田はその典型。
 忙しそうによく働いている人間に見せかけ続けた。だが、結果はあまり出ていない。無駄な演技分だけ損をしているようなもの。だが見た目はよく働く人に見える。
 西田は本来ののんびりとした動きに戻そうかと思うのだが、今からでは変だ。それこそ体調でも悪いのかと言われそう。
 一度人に見せたポーズはなかなか変えられるものではない。妙に思われるだろう。そしていつもの西田らしくないので、心配されたりする。
 演技だった、ポーズだったとは言えない。
 長年臭い芝居を続けてきたものだと、その慰労を自分で褒めたりした。褒美がいるだろう。しかし、明日もまたその演技を続けないといけない。そうでないと西田らしくない。
 その日はゆっくりと過ごしたので、翌朝は元気になっていた。
 当然その日もいつものシャキシャキ働く西田の姿があった。
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 12:14| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする