2020年04月03日

3709話 祭りの準備


 準備ができ、お膳立ても済んだ瞬間、妙な間が開いた。吉田はこの間を知っている。何度か体験した間。それはいざ、これからできるという段階になったとき、すくむのだ。そしてもう終わったかのようになる。まだ何もしていないのに。
 これがまた今回口を開いた。間が長いと間の横に口が開く。これはさっと一歩進めば見えない。さっと通過すれば事を始められる。スタートが切れる。
 間が悪い。間が問題なのではなく、間を置いたとき見えてくる。見てはならない西空だ。
 それで、せっかく準備を終えているのに、実行しない。用意はできている。あとはやるだけ。しかし、それは準備ではない。準備だけで、お膳立てだけでは何も起こらない。しかし、スタートすると現実が動く。準備も現実だが、実行は本番。
 本番に弱い。それは吉田の性癖。だからこそ準備はしっかりと、入念にやっている。本番のとき、困らないように。だから準備万端発車オーライ状態。しかし、あまりにもお膳立てがうまくできすぎていると、それが完成品になる。これだけでいいのではないかと、やる前から満足を得る。非常にいい準備だったと。見事な準備、最近では希に見るいい仕事だったと。
 準備ができているのに、やろうとしない。立ち止まってしまう。これはまだ準備が不足しているのではないか、吉田はそう思うのだが、実は逆。準備のしすぎ。過剰なほどのお膳立て。用意しすぎている。原因はこれだ。準備不足もいけないが、ある程度のところで、見切り発車した方がよかったりする。
 そういった準備を終え、発車待ちの列車が何本もホームに止まっているようなもの。
 いずれも実行しないまま、準備だけで終わっている。
 今回も車庫入りになるのかと思いながら、吉田は考え込んでしまった。
「準備なんてやりながらすればいいんだ。その都度。まずは走ってみること。これが大事だよ、吉田君」
 と、友人にいつも言われる。
「準備している時間で、やってしまえたりするしね。また、準備なんていらない場合もあるし」
 これも何度も友人から聞いている。
「完璧なお膳立て、それも悪くはないがね。そのお膳立てが完成品になる。完成度の高いお膳立てだとね。それで満足してしまう」
 これは吉田も知っている。
「問題は、君の準備作業、これだよ。これが問題なんだ。そこを直すべきだね」
 それも吉田は分かっている。だから何度も改良、改善した。それをすればするほど、いいお膳立てになるのだが、完成度が高すぎて、実行前に躊躇し、立ち止まってしまうため、間が開く。このワンテンポの遅れがあるとき、なかなか足が出ない。
 何かいい方法はないかと友人に聞くが、これも何回も聞いている。
「結局本番に弱いのはプレッシャーがかかっているからでしょ。そのプレッシャーは準備のしすぎでのし掛かるんだ。うまくいくはずだと。しかし、うまくいかないかもしれない。準備がいいので、うまくいって当然なのだが、万が一が怖い。そういうことだよ」
 今回も相談したのだが、やはり解決策にはならない。それで、諦めた。
 準備不足もいけないが、準備過剰もいけないようだ。
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 11:16| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする