2020年04月09日

3715話 薄まる


 果たして何を追いかけていたのだろう。以前から追いかけていたものがあるのだが、最近は曖昧になっていた。考えなくても、思わなくても分かっているつもりでいたためだろう。当たり前のターゲット。あえて狙う必要はなく、自然に追いかけていた。しかし、最近はぼやけてきた。何を追い求めていたのかは思い出せるのだが、ただの題目になっているのかもしれない。
 白川はそれを感じたのだが、それさえももうどうでもいいのではないかと思うのだが、これまでの経緯があり、それに向かって突き進んでいたことは、振り返ればすぐに分かる。しっかりとした目標があったのだが、進めば進むほど、徐々に曖昧にになり、ぼやけていった。
 果たしてそれが目標だったのかと思うほど、大したことではなくなっている。これは隣の芝生は青いのと同じで、そこまで足を踏み込み、足下を見ると、地肌も見えており、ハゲていたりする。緑の絨毯ではない。
 目標が目標でなくなってきたのは魅力の問題だろうか。そして引力。引っ張られるような引きつけられるようなもの。それが最近薄れてきた。
 このままでは芯がない、軸がないと思い、ぶれないように、もう一度確認した。
 そして若い頃からの目標だったことを、再確認したのだが、今もそれを続けているにもかかわらず、何か希薄。薄い。そして弱い。
「それはねえ白川君、目標が薄くなったんじゃなく、君が薄くなったんだ。髪の毛もそうだろ。私なんてもうほとんど地肌だ」
「植えたらどうですか」
「高いよ。それに急に本数が増え、密度が濃くなればおかしいでしょ。丸わかりじゃないですか」
「じゃ、ヘルメットタイプのカツラはどうですか。もみあげまで付いているやつ」
「あれは浮くんだ。ピンとね。しかし、そういう話じゃなく、薄まってきたんだよ。白川君」
「そうですねえ。若い頃から見るとメリハリがなくなりました。白か黒、0か1かの明快な判断が、できなくなってきました」
「そんなものだよ」
「その中間とか、多い目とか、少ない目とか、中途半端なところが多くなりました。多いか少ないかだけじゃなく、その中ほどの、こちらよりとか」
「それは経験を積んできたからさ。一概には言えないとかね」
「言えませんねえ。端数が気になります」
「割り切れるものじゃないからね。その方が自然なんだ。今までの君は不自然だったが、まあ明快な方が動きやすかったからでしょ」
「先輩はどうなのです」
「私はもう惰性だね。今までやってきたから、それを続けるだけ。しかし、いつ辞めてもいい」
「僕より進んでいますねえ」
「年の功だよ」
「はい、見習います。でも、もう少し深刻な話をしたかったんですが」
「まだ若いね。それも薄まるよ」
「そんなものですか」
「ああ」
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 10:42| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする