2020年08月01日

3829話 外神谷町


 パタリと人出が止まった街角。真っ直ぐに伸びた道の彼方は霞んで見えないが、人の姿はない。車は止まっているが。
 振り返ると、そちらは人がまばら。横切る車もある。
 左側は細い路地で、人はいない。右はその路地の延長だろうか、似たような風景で、そちらも無人。突き当たりに塀があり、寺の樹木が見える。
 高畠はそちらへ曲がることにした。土塀は行き止まりではなく、土塀沿いに道があるはず。
 外神谷町となっているが、プレートが錆び付いている。今は違う町名になっているらしく、新しいプレートが電柱に貼り付けられている。
 神谷町の外側にあったので、外神谷だろうか。神谷の外。それなら、どんな町にも当てはまる。神谷町以外は全て神谷の外になるので。
 しかし肝心の神谷町が見当たらない。新しい町名は新内町。この町の中心部というのはない。あるとすれば、土塀が見えているお寺程度だろうか。あとはただの住宅。店屋もクリーニング屋とか、シャッターが閉まったままのパン屋とか、その程度。
 高畠は別にそういうものを調べに来たわけではない。適当に散歩に出るため、バスに適当に乗り、自分の圏内から出たあたりで降りた。行く用事のない方角で、行くことは先ずない町が拡がっている。その中の一つ。
 さて、四つ角で右の路地に入ったのだが、案の定突き当たりの土塀の左右に道がある。土塀沿いに進めば、寺の門に辿り着けるだろう。
 左側へ進んだのは樹木が多いため。土塀沿いだがすぐ真下に川がある。まるで堀だ。実際に堀だったのかもしれない。または疎水。
 その横を少し行くと、右側に横道が出ている。寺の入口だろう。
 門はないが、右に土塀、左側は木の生い茂る境内で、柵があるので、そちらへは行けない。それに柵の前にドブがあり、それを跳び越えるのは面倒だろう。そうまでして渡っても境内の林に出るだけ。こういう柵があるのは、間違って入り込まないためだろう。
 高畠も間違えることなく、通路の先にある小さな門を潜った。最初から開いている。
 神谷とこの寺は関係するかもしれない。その痕跡を調べてもいい。寺の規模は敷地や掘り割りから見て大きい方だろう。それに入れるようになっているので、それなりに見るべきものがあるはず。
 ただ、町内の人が近道になるので、境内を横切るために使っている可能性もある。寺もそれを考えて開けているはず。地元の要望だろうか。それだけこの寺の敷地は幅を取っている。
 これで、寺と町との親密度が分かったりする。
 小さな裏門を潜ると、意外と境内そのものは狭い。広く見えたのは樹木が多いためだろう。寺の裏側に集中している。それで表側は普通の家があり、申し訳程度のお堂がある。墓はない。
 本堂よりも大きい寺の家。何だろう。
 その本堂、村の神社ほどの大きさしかない。
 その周りを高畠は見て回るが、これといったものはない。すぐに住居部の庭に出てしまう。二階建ての大きな家だ。
 表門もこぢんまりしており、本堂の規模に合わせてある。こちらも開いている。
 寺の家の横にも道がある。母屋の横を通っている。この道だろう。裏門から続いている近道は。
 高畠はその道を進んだ。右側に寺の家。寺の人の住居らしく、洗濯物なども見える。ただ、人は見えない。
 左側は先ほどの繁みで、林の続き。林の中に小さな祠があるが、赤い鳥居があるので、お稲荷さんだろう。だから見なくてもいい。
 そして小道の向こうに鉄柵がある。それも開いている。
 鉄柵の手前は駐車場だろうか。車が数台止まっている。鉄柵があるのはそこまでで、すぐに左右は土塀となる。
 そして鉄柵を抜ける。また普通の住宅が続いている道に出る。
 結局、神谷町との関係は分からない。ここが神谷の中心部だと思うのだが、寺の人に聞くほどのことでもない。
 そして住宅地の中をウロウロしていると、神谷町の表示があった。町名変更していなかったのだろうか。
 古いプレートかもしれない。もう高畠はわけが分からなくなってきた。しかし、外神谷はないようだ。
 神谷の外の町。その外神谷町は消えたが、一体何があったのだろう。
 そしてわざわざ当時の人が外神谷と言わせるような事情も知りたいものだが、帰りにバスに乗るときは、もうすっかり、そんなことなど頭から去っていた。
 
   了

  


posted by 川崎ゆきお at 13:01| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする