2020年10月10日

3898話 聖域


 岸の森を西に曲がったところに、聖域がある。立ち入り禁止だ。しかし、それは昔のことで、今はそうではないが、分かりにくいところにあるので、立ち入る人はほとんどいない。聖域時代は神社が管理していたようだ。その一帯は国有林だが、一部神社の土地がある。聖域はその中。
 何人も立ち入ってはいけない場所で、神主でさえ入れない。そのため、原生林に近い状態で放置されている。だが自然界にはそれなりの秩序がある。高い木が密生するようこともない。地面もそうだ。
 そこが聖域であることは、もう神社でもほとんど忘れている。用事がないので。それに飛び地のようなところにある。それに使われていない道は通りにくい。
 国有林側には林道がある。これも使われていないので、草に覆われ、ひどい場所では倒れた木が踏切のように塞いでいる。だから車は通れない。
 その辺りに入り込むハイカーなどはいない。高い山はないし、そんなコースもない。神社は人がいるところに建つ。村の神社なので、村人が建てたもの。神社は町の端にある。山を背にし、場所としては、ここだろう。寺より先に、いい場所を取っている。
 郊外の外れだが、町ができている。そこの人が散歩で、その聖域近くをうろつくことがある。一寸した里山だが、長閑さはない。里山はやはり家が見え隠れし、人工物が半々程度あるほうが落ち着く。聖域近くはただの山の中。自然率百パーセントに近い。
 そこが聖域であることを発見したのは町の散歩人。しかし神社や、旧村時代の人達なら知っている。だが、話題に上ることは先ずない。
 町の散歩人はSNSをやっていて、そこに写真などを載せた。
 立ち入り禁止を示す石柱が写っている。だが、文字はもうよく見えないので、そう読めるとなっている。
 そして神主の証言もある。確かに聖域だと。これでお墨付きをもらったので、ネットに上げた。出鱈目だとは思われたくなかっのだろう。我が町の近くにも聖域があると。
 聖域へは神社の裏からも行ける。以前は聖域前に祭壇のようなものがあったらしい。聖域内ではなく、その入口。そこに注連縄が張られていた。古い写真が残っているが、もう注連縄も古くなっている。それを最後に、交換しなくなったのだろう。最後に写した写真のようだ。
 聖域は一寸窪んだところにあり、湿気ている。雨が降ると小さな水溜まりできる。水捌けが悪いのだろう。近くに谷川らしきものはない。
 何故聖域となったのかは不明らしい。いつ頃からそうなったのかもはっきりしない。しかし、かなり昔からそうだったようだ。
 神主は興味はないらしいが、母親がそれなりに知っていた。しかし、それは秘密らしい。
 神主は誰にも言わないから、聞きたいとねだった。
 会話不足の母親は、口が軽くなっていた。
 神主はそれを聞いて、うーんと唸った。
 この聖域、勝手に作ったもので、聖域が必要なので作ったらしい。人が入れない場所として。それだけでよかった。
 その聖域に何かあるわけではなく、人が踏み込んでいない空間があるだけ。人跡未踏地を近くに作っただけ。
 町の散歩者が、さらに神主に聖域のことを聞きに来たが、もう教えなかった。
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 12:42| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする