2020年10月12日

3900話 雨枕


「雨ですなあ」
「また、その話になりますか」
「いや、雨が降っていたので、今も降り続いていますがね」
「見れば分かります」
「でもこの雨、台風がもたらしたものだと思われます」
「はい、そう思っていればいいでしょ」
「秋の雨。一雨ごとに寒くなる」
「春先も、春の雨は一雨ごとに暖かくなると言ってませんでしたか」
「言ってません」
「じゃ、春、雨が降っているとき、なんて言ってました」
「春雨と」
「そうでしたか」
「鍋に春雨を入れたのですが、あれは溶けますなあ。早く引き上げないと」
「その話でしたか」
「そうです。だから春に降るので、春雨だと言っただけです」
「秋は秋雨ですね」
「ほら、あなたも雨の話に乗りだした」
「乗っていません。これで終わりです」
「しかし、雨の日は人が少ない。ここも普段の四分の一ほどでしょ。だから雨が降っているということはかなり影響力が高いのですよ。何でもない話じゃない。長雨など続くと、客足が減ったまま。店屋なんて売上げに影響しかねません。それに野菜が高くなったりする。降りすぎても駄目だし、晴れすぎても駄目。それで高い野菜を買わないで、別のものを買う。または高いのですが、我慢して、高いのを買う。すると、予算が狂うので、そのあとは百均とかへ行って、安いのを買う」
「長雨ではなく、長話ですね」
「その百均へ行くとき、思わぬことに出くわす。高い野菜を買ったばかりに、そういうことが起こる。野菜が高いのは長雨。だから、ここでも影響が出る。思わぬこと、椿事に遭遇。人生そのものが変わるかもしれません」
「それを言い出せば、何でもそうでしょ」
「雨が降っていないので、そのまま出掛ける。しかし、途中で降り出した。戻って傘を取りに帰るか、そのまま出掛けるかの選択がある。その道筋での時間帯が変わってきます。傘を取りに帰らないで、濡れながら行った場合と、取りに帰った場合とでは違いがある。道での遭遇。数分の差が人生を決める。そのきっかけは雨でしょ」
「他にも色々ありますよ。煙草が切れたので、寄り道して、煙草屋経由で行く場合と、ストレートに行く場合と。だから雨だけが引き金にはならない」
「まあ、そうですがね」
「さて、肝心の用件ですが」
「もう本題に入りますか。私は枕が好きでしてねえ。枕だけで終わった方がいいのでは」
「いや、それじゃ雨の中、わざわざ合うようなこともないでしょ」
「そうですねえ。で、本題に入りましょうか」
「そうしましょう」
 
   了





posted by 川崎ゆきお at 12:01| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする