2020年10月13日

3901話 上手


 目が覚めると、かなり遅い時間だった。約束の時間に間にあうかあわないかのギリギリ。下村は目覚まし時計を使っていない。滅多に朝から人と会う用事がないためだ。それに仕事に行っていないので、朝は好きなだけ寝てられる。これがしたいので自宅勤務になった。自宅警備員ではない。
 雨が降っている。昨夜からまだ降り続いている。寝ている間、一度も目が覚めなかったので、その間、降っていたかどうかは不明だが、夜中、外に出ないので、関係しない。
 雨の日は睡眠時間が延びる。それで目が覚めたとき、遅かった。まだ寝たりないが、起きないと間にあわない。
 秋の雨、秋の朝。これは何故か眠い日がある。眠くないのは夏ぐらいだろう。暑いので起きている方が楽。
 しかし、眠い。
 これは美味しい眠り。ここでもう一眠りするのは、あたい千金。それほど値打ちがある。他の何よりも。
 どちらへ行くか。
 ものを知らないとき、それを聞くはその場の恥。聞かないでそのままだと一生の恥。
 下村は後者だ。先々よりも、その場を優先する。
 それとは関係はないが、ここで起きなければ先々困ることがある。人と会う約束なので、その用件に入れないし、また会わないとなると、これは約束破り。しかし遅れる程度はいいだろう。まだチャンスはある。だが、ここで起きないでグズグズしていると、遅刻の寛容範囲内から出てしまう。
 さて、どうする。
 迷ったときは動かない。動けないのではなく、動かない。
 下村は目だけ開けてじっとしていた。当然、そのままでは瞼のシャッターが徐々に徐々に降りていく。
 やがて下村は寝入った。
 だが、うたた寝程度。結構長く寝ていたので、もう寝たりているのだろう。それ以上眠れないが布団の中でグズグズしていたい。秋とはいえ雨で肌寒い。蒲団の温もりがいい感じで下村をサポートする。ずっとそのままでいよと包んでくれる。
 次に目が覚めたとき、遅刻の寛容範囲内から出かかった。今、起きれば、まだ遅い目の遅刻で済む。
 ギリギリだろう。ここまで引っ張ったが、もう限界と、下村は起きる。
 起きると意外としゃんとしていた。睡眠が効いているためだ。
 それで、さっと用意し、約束の場所まで急いだ。遅刻の寛容範囲内だが、少しでも早い方が、その罪は軽くなる。
 そして待ち合わせ場所に着いたのだが、先方の姿がない。
 電話すると。ムニャムニャ声。
 先方は下村よりも上手のようで、まだ夢の中だったようだ。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 13:01| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする