2020年10月23日

3911話 小松崎大画伯の日常

小松崎大画伯の日常
 雨はやんだが曇っている。ひんやりとし、肌寒い。秋中頃の雨だが降っているときよりもやんでからの方が寒い。
 一雨ごとに寒くなり、やがて晩秋へと至るのだろうが、その先は冬が待っている。それを超えると春。その繰り返しを小松崎は何十年も繰り返しているが、意識していない時代の方が多い。
 肌寒いのでコートの下に毛糸のセーターでも着込んで出ればよかったのだが、まだ今からそんな服装ではと思い、着てこなかった。これが後々重大な結末をもたらせる、ということもないだろう。寒いといってもしれている。それに薄着ではない。この程度では風邪を引かないだろう。ただ、一寸肌寒いだけ。
 もし一枚、暖かいものを下に着ておれば、寒いとは感じなかったかもしれない。
 用事は駅前にあり、そこで人と会う。仕事だ。その仕事のことよりも、暑い寒いの問題が先に来てしまう。
 駅に着くと若い人が待っていた。スーツ姿。上にコートを羽織るにはまだ早い。チョッキも着けていない。白いカッターシャツの襟元が寒そうだ。しかし見渡すと、そういう人の方が多い。だから毛糸のセーターを下に着込んで厚手のコートを着るなど早すぎる。下に着込まなくてよかった、と、その若い人と出会って真っ先に思ったのはそのこと。仕事のことではない。
 駅前はドーナツ化現象で、色々な店があったのだが、シャッター通り。普通の喫茶店は既になくなってから久しいので、ドーナツ屋の二階に上がる。それが食べたいのではない。
 階段を上がるとき、足が重い。運動不足と足の重さの因果関係を調べたが、体調の方が影響力が大きい。これは小松崎の主観でそう感じている程度。
 仕事の話は、すぐに済む。初対面の若い人は大人しい人で、用件だけを小さな声で伝えていたが、よく聞き取れない箇所もある。ただ、おそらく大体こんなことを言っていたのだろうと考え、聞き返さなかった。
 若い人は早く出たいのか、さっと飲み物を飲みきり、さあというような眼をした。さあ出ましょうというような。
 小松崎は無駄話を少しだけしたかったのだが、付き合ってくれないようだ。若い人の方が小松崎よりも忙しいのだろう。
 そして駅前で別れた。
 小松崎はシャッター通りの商店街の奥へと向かった。衣料品店がまだ営業しているはずで、そこで毛糸のセーターを買うつもり。ただしアクリルではなく、本物の毛糸。ただ、アクリル五十パーセントぐらいなら寛容範囲で、買うかどうかの判断が難しい。ただ、そちらの方が安いだろう。
 しかし毛糸のセーターなどなく、ポリエステルのセーターばかりだった。
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 11:31| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする