2020年12月14日

3963話 初冬


 初冬、それほど寒くなく、しかも昼過ぎ、一番気温が上がる頃。鈴木は毛糸のセーターだけで外に出た。いつもはその上からジャンパーを羽織っているのだが、暑苦しいことがある。
 一枚脱ぐ、重いコートではないが、ジャンパーを脱ぎ……は春で暖かくなってからのセリフ。これからどんどん寒くなっていくとば口で脱ぐというのはどういうことか。
 寒くなり出してから過剰に着込んだため。
 まだそこまで寒くはないのに。
 しかし寒さに慣れてきたのか、それほど着込まなくてもいいことが分かった。それでその日は脱いだ。
 しかし、セーターだけで出ている人は見かけない。道行く人は冬向けのダウンジャケットやオーバーやコートやジャンパー。
 これは少し脱ぎすぎたかと、鈴木は後悔した。その証拠にビル風がスースーと入ってくる。これが夏場なら涼しいかもしれないが、今は寒い。しかし、何故か気持ちのいい風。それほど冷たい風ではないが、衣服を通過し、身体にじかに回り込むような風。風の被弾。
 それが妙に快いのは、どうしたことか。
 冬場、敢えて部屋の窓を開けっぱなしにすることがある。空気の入れ換えだ。これも寒い。
 鈴木が小学校へ通っていた頃の担任の先生がそうだった。まだ暖房も冷房もない木造教室。隙間風で寒いのだが、先生は窓の全開を命じた。
 暖房はないが、生徒達が熱いのだろう。人が暖房装置になっている。
 そして全開すると、スーと風が入って来て、今までの空気と入れ替わる。まあ、外に出たのと同じ。凍結するわけではない。気温は零下ではない。
 このときの清々しい寒さを鈴木は思い出した。何かしゃんとする。引き締まる。
 たまには冷たい風に当たるのもいいだろう。これは何か別のことでも当てはまるのではないかと考えながら、部屋に戻ってきた。
 当然すぐに暖房を付ける。部屋は暖かくなり、居心地が良い。
 しかし暖かいので気持ちはだらけてしまった。
 それで、鈴木は暖房を切る。そして冷房に入れ直したわけではない。それなら冷蔵庫にいるようなもの。そこまでせず、暖房なしの状態にした。鈴木が戻ってくるまではそうだったはず。しかし外よりも室内の方が少し温度は高い。外にいるよりはまし。また風もない。隙間風はあるが、大したことはない。
 するとだらけていた頭もシャキッとし、あの小学校時代の教室での爽やかさになった。
 その夜、鈴木は風邪を引いた。
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 11:26| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする