2021年01月01日

3981話 一年間の達成感


「今年、これといったことはしていない」
「はい」
「このまま新年を迎えたくない」
「去年はどうでした」
「去年はこれといったことをしなかったように記憶しているが、忘れた」
「その前の年は」
「以下同じ」
「じゃ、例年通りですね。今年も」
「だからこそ何とかしたい。数年分、いや十年分ほど溜まっているかもしれん」
「これって言うことって何でしょう」
「何か成したと言うことだ」
「一つ年をとりますよ。これだけでも十分では」
「そうかね」
「無事に年をとるだけで十分でしょ」
「体調が悪いので、無事ではないと思うが」
「それでも生きて年をとる。死んでからは年はとれませんよ」
「生きていたら何歳とかもあるだろ」
「でも誰も見たことがありません。本人でさえ」
「そうだね。で、君はどうなんだ。良い年だったか。これと言うことを成したか」
「いいえ」
「あ、そう。それはそれは」
「嬉しそうですねえ」
「同じなのでね」
「でも何かを成した年であっても、別にどうってことはないですよ」
「しかし、何もないよりはまし」
「欲しいですか」
「欲しい。何か成したと言うことが」
「今からじゃ遅いですしね」
「買えるものじゃ駄目なんだよ。一年掛けてやったようなことでないと」
「ローマは一日にして成らずですね」
「三日でも無理だ」
「はい。でも、何もなくてもいいんじゃありませんか。逆にすっきりしたものですよ。苦労もいらないし、努力もいらない」
「苦労、努力、どれも避けてきた」
「じゃ、無理ですよ。何か成すにはそれなりのことをしないと」
「君もしなかったのかね」
「そうですよ」
「おお、威張ってる」
「余計なことをしただけで終わることが多いですからねえ。自分のためにも人のためにもならなかったりしますし」
「せめて自分のためだけでもいいから、やりたかったなあ」
「でも、しなかったのでしょ」
「やる気はあったが、新年早々諦めた。しんどそうなのでね。寝ている方がいいと」
「なるほど」
「君はどういうつもりだった」
「僕は何も成せませんでしたが、望んだ通りの年になりました。それで満足です」
「何を望んでいたんだ」
「怠け倒すこと」
「ほう」
「この一年、怠け倒してました。だから何も成果はありませんが、怠け倒したという達成感はあります」
「おかしな人だ」
「これもまた道です」
「若いのに、怖い人だ」
「いえいえ」
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 13:42| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする