2021年01月05日

3985話 平穏な年明け


「今年の新年はどうですか。どう越されました」
「例年よりも薄いです。年々あっさりしています」
「あっさり」
「はい。あっさりです。淡泊になります。平日よりも静かなくらい」
「それは何事もなく新年を迎えられて結構なことと思いますよ」
「少し物足りない気もしますが、穏やかな年明けでした。遅くまで起きていましたが、いつ年を越したのか気づきませんでした。その原因は除夜の鐘。今年はついていなかったのでしょうねえ。どこの寺かは分かりませんが、毎年聞こえてくるのですが、今年はサイレントでした」
「はい」
「年の瀬、大晦日も街に少し出て風情を楽しもうと思ったのですが、人出もなく、何か寂しい夜でした。まあ大晦日なので早仕舞いしていたのでしょう。しかしその前日にも行きましたが、賑わいがない。私だけじゃなく、年々年末年始は静かになりつつあります。淡泊というか軽くね」
「世情を反映しているのでしょう」
「そうですか」
「この分では今年一年もあまり印象に残らないような淡泊な年になりそうです。まあ、その方が平穏でいいのですがね」
「いろいろなことが世の中では起こっていますよ。去年もそうです」
「知りませんでした」
「それはそれは」
「私の周囲じゃ何も起こっていませんからね。隣近所でも」
「はい」
「それで今年はどうなさるおつもりですか」
「今年も何もしないでしょ」
「そうですか」
「不満ですか」
「いえいえ、しかし」
「しかし」
「そろそろ動いてもらわないといけないと」
「もう騒動は起こしません」
「休火山ですか」
「死火山です」
「それを聞いて、ますます怖くなってきました。今年、やるのではありませんか」
「何もしません」
「そうあって欲しいところですが、少しぐらいは動いてもらった方がいいのですがね。大きな動きではなく小さな動きで結構です」
「なぜかな」
「あなたが動けば威嚇になります」
「まだ、そんな争いを続けておるのですかな。私はとっくに身を引きましたよ」
「誰もそうだとは思っていません」
「せっかく平穏な年明けを迎えたので、このままにしておいてください」
「それは真意、本意ですか。敵を騙すには味方からといいますが」
「私にはもうそんな力はありません」
「でも温存されている。それが怖いのです」
「あなたが怖がる理由はないでしょ」
「そちらが動かれた場合、私が先兵になるでしょう。その日がいつか訪れる」
「それはない」
「本当ですか」
「もし私が動いたとしても、もう何の力もありませんから」
「世間はそう思っていません」
「私は思っています。このまま今年も来年を平穏な日々を過ごしましょう。私さえ動かなければ、平和なはず」
「少しは動いてもらった方がいいのですが、まあ、ことが大きくなる可能性もありますので、今のまま大人しくしていただくのも悪くはありません」
「だから余計なことを言いに来ないで、君も静かにしていなさい」
「敵はすでに動き出しています。お気をつけて」
「はいはい」
 
   了





posted by 川崎ゆきお at 13:57| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする