2021年01月11日

3991話 流れ坊貧寒


 貧寒という僧侶がいる。これは呼び名なので最初からそんな名をつける方がどうかしている。子供の頃から坊主だ。だから小坊主からのたたき上げ。これがある年代から坊主になった人なら、貧寒という名をあえて名乗るかもしれないが。
 しかし、その貧寒、流れ坊主。そのため流れ坊貧寒とも呼ばれている。
 本山で修行し、そのあと末寺に配属されるのだが、どの寺も長くは置いてくれない。説明する必要はない。流れ坊貧寒で全てを語っている。要するに彼が来ると寺が貧しくなる。大食いではない。
 それまでよりも寺が寒々とする。貧寒が冷房の役割を果たしているのか、冷え冷えとした空気を漂わせる。これで寺の中の温度が下がる。夏場はいいが冬は困る。
 それだけでも問題だが、一番困るのは、妙に出費が多くなり、物入りが多くなり、寺の財政が傾き出す。要するに貧乏になる。
 寒くて貧乏。貧乏で寒い。
 因果関係ははっきりしないのだが、貧寒の顔を見ると、おまえが犯人だ、と誰もがピンとくる。
 それで追い出されるのだが、一応は本山に所属している僧侶。そのまま野に放つわけにはいかない。別に破門するほどのこともしてない。
 それで別の寺へと移される。そこでも似たようなことが起こり、今では流れ坊とあだ名されるほど、厄介者になっている。
 そして、草深い山奥の寺に流された。そこは名僧などがいる寺なのだが、末期の水ではないが、末期を迎えた老僧が行く末期の寺。しかし、まだそれほど年寄りでもない僧もいる。山寺だけに人里から離れているので、修行のための寺といってもいい。
「噂には聞いていましたが、あなたでしたか、流れ坊貧寒さんとは」
「はい、お恥ずかしい」
「何の何の。どうせここは貧乏寺」
「お世話になります」
「しかし、修行の寺、下との関わりはほぼ絶っております」
 その日の夕げは粗末なもので、白いご飯ではなかった。
「仙人は松の葉を食べたと言われますが、あれは食えません」
「そうですか、食べたこと、ありませんから分かりません」
 それからひと月後、貧寒の本領が発揮された。誰もが恐れることだが、それが起こった。
 これで、また追い出されるのではないかと貧寒は恐れたが、そうでもなかった。
 この貧寒、貧縁を引きつける。
 ところが下の村から米や野菜が届くようになる。酒樽も届いた。
 貧寒は驚いた。いつもと違うので。
 それでいろいろと考えたところ、この寺は最初から貧しすぎる。そのためかもしれない。
 要するに貧寒の貧縁のレベル以下の寺なので、貧寒が引き上げたことになるのかもしれない。
 しかし、貧寒は追い出された。
 この貧乏寺の僧は、貧乏好きだったようで、修行にはそれが一番いいと思っていたようだ。
 
   了

 

posted by 川崎ゆきお at 12:39| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする