2021年01月24日

4004話 水見川の上流


 美川橋は水見川に架かっている。水見川の中では一番幅が広い。河口までまだ距離はあるが、国道が通っているためだろう。美川橋となっているが、橋が美しいわけではないし、川が美しいわけでもない。水美川は上流は別だが、市街地に出てくると、ドブ川に近いが、最近はましになっている。何かが浮いていたり、川底に自転車が沈んでいたり、場合によっては豚が浮いていたこともある。
 豚小屋が確かに上流にはあるが、原因は分からない。
 水見川の名の由来も曖昧だが、よく氾濫を起こしていたので、雨が降ると始終水かさを見に行かないといけないので、そうなったとかの説もあるが、ミズミという言葉が先で、水見川は当て字。ミズミの前はミズモと言われていた。
 それほど大きな川ではないが、上流は意外と遠くから来ている。ただ、途中で川の名が変わる。水見川は平野部に出てきてからの名で、それほど古い名ではない。
 山から出る前の名は木桧川。ヒノキの産地だったのかもしれない。
 木桧川の上流は変わった場所で、山奥なのだが、湿地帯。しかもそれが非常に広い。水草しかないような場所で、小盆地なのだが、水が多すぎる。雨が降ると湖のようになる。水草だけが頭を出しているが、水は深くない。
 つまり水源が湖のようなものだが、無数の水路が走っている。
「そんな場所があるのですか。北海道じゃないのですか」
「いや、中国地方の日本海側です」
「行ってみたいですなあ」
「私も聞いた話です。水見川は知ってますし、美川橋も何度も車で渡りましたが、その上流のことまでは知りませんでした」
「上流は桧木川でしたね」
「その先はまた別の名になるようです。しかし、もう名前は分かりません。ヒイとかの名が付くことが分かっている程度。まあ、忘れられた土地でしょ。誰も手を付けない」
「はい」
「市街地に入った水見川ですが、寂れた市街です。人も少ない。町は町なんですが、置いていかれたようなところです。車で橋を渡るとき、周囲を見ますが何十年も前の世界に戻ったような雰囲気です。それと暗い」
「近くに駅はありますか」
「ありますが、ここも寂れています」
「じゃ、その寂れた町を流れる川の、さらに上流となると、秘境ですねえ」
「人が滅多に来ないから秘境なんでしょうね」
「八岐大蛇の神話と関係しますか」
「しないようですが、湿地に入ると、蛇のように川筋が曲がりくねっています。その程度です」
「はい」
「そこに入り込むと、出てこられなくなるとかは」
「さあ、それは聞いていません」
「そうですか」
「私も聞いただけなので」
「はい」
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 12:48| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする