2024年07月19日

5271 零戦隼人 


 低気圧で辛いのか、湿気で辛いのか。蒸し暑さで辛いのか、平田は今日は零戦隼人で行こうと決め込んだ。正しくは零銭隼人。
 ゼロ銭、つまり一円にもならない隼人。隼人とは人の名。これはそういう名の主人公の飛行機乗りの話が昔あった。
 平田はそれを覚えている。ただし物語は忘れた。覚えているのは零戦隼人だけ。タイトルだけ。
 だから正しくは零銭平田となり、一円の稼ぎもない平田ということだ。体調が悪いので、今日は坊主でいい。この坊主とは僧侶ではなく、釣り人が一匹も釣れたなかったとき、今日は坊主だったという意味。なぜ坊主なのかは分からない、毛がないから坊主とは思えない。剃っているだけで毛はあるのだ。
 そのため、子供のことを坊主と呼ぶが、それに近いかもしれない。だが。ボウズと書けば、その語呂で何となくイメージされる。
 要するに日銭を稼ぐ必要のある平田だが、サボっただけ、という話。その決断を下すとき、今日は零戦隼人で行こうとなった。勇ましい言葉だが、逆側だ。
 こういう決断、提督の決断とも平田は呼んでいる。連合艦隊の司令長官のように。だから身分はかなり高い人。ただし、平田はただの水兵さんのような身分だが。
 怠ける話だが、大層に、荘厳に。厳めしく。低い声でそうつぶやく、しかも喉を少し震わせながら。
 サボったので零戦隼人になるが、身体にはいい。身体は得をした。だから決して一円の儲けにもならなかったわけではなく、休息することで身体は儲けている。増えはしないが、体調が戻るだろう。
 これは益するのと同じ。だから有益。そのため、零戦隼人で行こうと決めるのは勇断であり、好ましい判断。
 しかし、平田はそれほど疲れたり、体調が悪いわけではなく、蒸し暑いので、動くのが大層なのだ。それだけのことなので、多少後ろめたさがある。
 梅雨時、平田はよくこの零戦隼人を発動させている。そして今日も梅雨空に飛び立つのだが、平田自身は寝転がっている。
 
   了
posted by 川崎ゆきお at 12:30| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする