2024年07月20日

5272 起伏


「起伏がない」
「それは平坦でよろしいですなあ。見る限りの大平野。歩くのが楽です」
「大平原は飽きる。少しは起伏があってもいい」
「ありますよ。よく見ると」
「もう少し、見た目はっきりとした崖とかな。そういうのがあると、避けて通る」
「不便じゃないですか」
「危ない箇所がある。それだけでも刺激になる」
「平坦な道を行く方が気楽で良いと思いますがね」
「少し歯ごたえが欲しい。きついのは駄目だがな」
「起伏がないというのはどういうことですか」
「良いことも悪いこともないようなものかな」
「じゃ、ずっと良い状態では」
「それがずっとなら良いとは感じないがな」
「期待で胸膨らませ、結果、期待外れで落胆する。こう言うのが起伏じゃ」
「山あり谷ありですね」
「疲れるがな」
「じゃ、平坦な方がよろしいかと」
「まあ、平坦な大平原でも起伏があると先ほど言ったな」
「多少の高低差はあります。坂もそれなりにありますよ」
「その程度でいいか」
「そうですよ」
「喜怒哀楽の幅が小さい。一寸した善さ、一寸した哀しみでは頼りない」
「悪いことがあるので、良いことが光るのでしょ」
「どちらもなくすと平坦か。起伏がない」
「しかし、多少の高低差は」
「僅かな上り坂を凄い坂だと思うか」
「一寸した下り坂が、今度は崖に見えますよ」
「じゃ、どっちも同じか」
「やはり起伏はあります」
「うむ」
 
   了
posted by 川崎ゆきお at 13:01| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする