「起伏がない」
「それは平坦でよろしいですなあ。見る限りの大平野。歩くのが楽です」
「大平原は飽きる。少しは起伏があってもいい」
「ありますよ。よく見ると」
「もう少し、見た目はっきりとした崖とかな。そういうのがあると、避けて通る」
「不便じゃないですか」
「危ない箇所がある。それだけでも刺激になる」
「平坦な道を行く方が気楽で良いと思いますがね」
「少し歯ごたえが欲しい。きついのは駄目だがな」
「起伏がないというのはどういうことですか」
「良いことも悪いこともないようなものかな」
「じゃ、ずっと良い状態では」
「それがずっとなら良いとは感じないがな」
「期待で胸膨らませ、結果、期待外れで落胆する。こう言うのが起伏じゃ」
「山あり谷ありですね」
「疲れるがな」
「じゃ、平坦な方がよろしいかと」
「まあ、平坦な大平原でも起伏があると先ほど言ったな」
「多少の高低差はあります。坂もそれなりにありますよ」
「その程度でいいか」
「そうですよ」
「喜怒哀楽の幅が小さい。一寸した善さ、一寸した哀しみでは頼りない」
「悪いことがあるので、良いことが光るのでしょ」
「どちらもなくすと平坦か。起伏がない」
「しかし、多少の高低差は」
「僅かな上り坂を凄い坂だと思うか」
「一寸した下り坂が、今度は崖に見えますよ」
「じゃ、どっちも同じか」
「やはり起伏はあります」
「うむ」
了