2024年07月22日
5274 老婆心
「気のせいだと思いますが、何か異変が起こりそうな気がいたします」
「気のせいじゃ」
「しかし、それがしの勘は良く当たるのです」
「何か思い当たるところでもあるのか」
「ありません」
「火のないところに煙は立たぬ。火を付けぬ限りな」
「そうなのですが、少しだけ思い当たるところがあります」
「そこが火元か。では思い当たるところがあるのではないか」
「勘違いかもしれません」
「だから、気のせいじゃ。他言するようなことではない。ましてやわしの耳に入れると言うことは、何か頼みがあるのか」
「頼み事ではござりませんが、用心に越したことはありませんので」
「もったいぶらずに言ってみよ。何処でどんな異変が起きる」
「勘違い、気のせいだけなら良いのですが、吉岡家です」
「吉岡城のか」
「古くから仕える重臣ですが、どうも吉岡領での動きが怪しいと」
「そういえば、この前の評定には来ていなかったのう」
「もってのほかです。これは重臣としての義務」
「病んでいて出てこれないと言っていたぞ」
「仮病でしょう」
「それは気のせいではなく、ただの想像だ」
「あ、はい。それ以外にもいろいろと不審な点が」
「何だ」
「足軽を多く抱えているとか」
「吉岡領は豊かな地。雇えるゆとりもあるのだろう。それにいざ合戦となれば、心強いではないか」
「しかし兵が多すぎます」
「何が言いたいのじゃ。ただの憶測だろ」
「隣国の使者が何度も来ているとか」
「よく分かるのう。そんなことが」
「草からの報告です」
「間者か」
「これは反旗」
「謀反だと」
「はい」
「吉岡は当家の宿老。それはあるまい」
「そうであって欲しいのですが」
「しかし、そこまで調べれば気のせいではすまんだろ」
「決まったわけではございませんが、用心に越したことはないかと思い」
「隣国からの使いと言っても同盟国。吉岡も商売をやっているので、そのためだろう」
「そうなら良いのですが」
「煙を立てておるのはそちではないのか」
「滅相もございません。老婆心ながら、そっとお耳に」
「しかし、気のせいだと申していたはず」
「はい」
「だったら気のせいのままで良かろう」
「そうであって欲しいところです」
「まだ、申すか」
「もう、燃やしません」
了