2024年07月27日

5279 鳥獣戯画


「今年も暑いですねえ」
「梅雨も明け、真夏ですからね」
「頭がボーとしますよ」
「気をつけてください。あまり気持ちがいいと危険ですよ。そのままいってしまいますからね」
「熱中症のようなものですか」
「まあ、身体に熱がこもり、ややこしくなるのでしょ」
「ボーとしているとき、あらぬものを見ます」
「あらぬとは」
「あり得ないようなものを」
「それは珍しい。幻想とか幻覚というやつですね」
「そんなものいないのですがね」
「何がいるのです」
「庭に出るのです」
「広い庭をお持ちだった」
「枯山水を模していたのですが、無理なので、草原にしています。一寸した岡がある程度」
「自然の野山のような」
「まあ、そんな感じです。草が伸びないようにしています。伸びる草は抜いています。まあ、芝生のようなのが一番いいのですがね」
「じゃ、ゴルフ場のような」
「まあ、石も置いてますから、これは岩山」
「ほう。それは一度見たいですね」
「その話じゃなく、そこで見たのですよ」
「それそれ、それをお聞きしたかった。何でしょう」
「カエルです」
「カエルなどいないでしょ。アマガエルさえ」
「そうです。水田や畦の川にはいたのですが、もう子供時代の話ですよ」
「そのカエルがいたと」
「そうなんです。それが走り回っているんです。蛙跳びじゃなく二本足で歩いたり走ったりと」
「鳥獣戯画ですな」
「高僧の袈裟を付けたカエルもいますよ。何やら他の裸のカエルに説法していたり」
「ウサギは」
「いません。寸法が違うでしょ。カエルに比べればウサギはモンスターですよ」
「じゃ、カエルだけの鳥獣戯画」
「いや、ブイブイとかの虫もいますよ。その辺は幻覚じゃなく、実物かもしれませんがね。カエルと戯れています。だからやはり、これも本物じゃない」
「じゃ、立体的な動く3Dジオラマ」
「そういうのを見たのですよ」
「じゃ、今、見に行けばいますか。見られますか」
「それは無理でしょ。ずっとカエルが走ったりはしゃいでいるわけじゃなく、そっと庭を見たとき、何やら動くものがある程度。始終じゃありません」
「良いものをご覧に」
「出るときと出ないときがありますよ。夏の終わり頃、盆頃からでは流石に暑気も引いて減りますなあ」
「じゃ、今が見頃」
「はい、その通り」
「まっ、御達者で」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
 
   了
posted by 川崎ゆきお at 12:42| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする