2024年07月28日
5280 錬金術
「何もないようなところから何かを見出す。これが極意でございます」
「ただの水から砂金が得られるか」
「そのようなことは起こりませぬ」
「では条件があるのだな」
「何もないと思われているところに何かがあります」
「それは先ほど聞いた」
「ないはずのところにある」
「条件付きでな」
「はい」
「ありふれたものの中にも凄いものがあるのか」
「ございます。それこそ、何でもないようなものの中に何かが入っているようなものです」
「何が」
「だから、何かが」
「その何かとは何だ」
「あなた様が求めているもの一般です」
「しかし、わしが求めているものは探さなくてもあるぞ。そんな曲がりくどいことをしなくても。ただし、手に入れるのは困難。たとえば人の持ち物だったりするのでな。求めておるものは見えておる。ありかも分かる」
「それを手に入れたときはどうなりますかな」
「良いものを手に入れたと喜ぶじゃろう。それだけだがな」
「それで終わりですかな」
「また違うものを手に入れればいい。ただ、もう見つからなければ無理だが、見つかるまで待つしか仕方があるまい。探しに行っても場所さえ分からん。それにあるかないかもはっきりせん」
「手に入れなくても、その喜びが得られたとすればどうでしょうか」
「え、何を言っておる」
「欲しいのは喜びでございましょう」
「それを実際に手にしたときの喜びじゃ」
「喜びだけを得られれば、苦労はいりませんよ」
「何もないのに喜べるか」
「そうですなあ」
「であろう」
「しかし、そういう気になることもあるでしょ」
「それは手に入れた時を想像して嬉しくなることもある。手には入れていないがな」
「それでよいのでは」
「よくない」
「はいはい」
「もういい、下がっておれ」
「何もないところから何かを見出す。この極意お忘れなく」
「話が繋がらん」
「是非お繋げくだされ」
「分かった分かった。もう下がってもいいぞ」
「ははー」
了