2024年07月06日
5259 梅雨の晴れ間
「暑くてたまりませんなあ」
「梅雨の晴れ間はそんなものだ」
「梅雨が明ければ、こんな暑さが続くのでしょうなあ」
「だから雨が降ってくれた方が都合がいい。それほど暑くはならんしな」
「でも雨ばかりだと湿気てしまい、気も滅入りますよ」
「良いことがあれば別だろう」
「滅多にありませんよ。それに良いことって結構疲れますから」
「だから雨で鬱陶しがって過ごす程度の方がいいのだよ」
「そうですなあ。今日の暑さはこたえます。昨日まで雨で涼しかったのに」
「夏の牙だな」
「確かに暑さの牙をむき出しました」
「まだ、こんなものじゃない」
「冷夏も以前ありましたよ」
「梅雨がずっと続いているような夏で、秋の初め頃まで雨が降っておった」
「続きすぎです。暑さの牙の方がましですよ」
「そうだな」
「この暑さで、もう私、夏バテです」
「初夏の頃もそんなことを言ってませんでしたかな」
「言ってました」
「まあ、暑いときはバテておればいいのですよ。何もしないで」
「ええ、ええ、何もしなくてもバテますしね」
「だったら、何かしてもいいかもしれん。どうせバテバテなんだから」
「いや、違うでしょ、バテ方が。何もしていない方がバテ方も少ない」
「そりゃそうですな」
「暑いと食欲も落ちます」
「そりゃ経済的だ」
「ただよく眠れます」
「それはいいことだ。真夏に安眠。いいでしょ。それは」
「まあ、悪いことばかりじゃないですね」
「そうだね」
了
2024年07月05日
5258 企て
「企みがあると窮屈じゃのう」
「当家の道が広げられます」
「聞こえはいいが、このままでは滅びるんじゃろ」
「生き抜くためにも、その企みを」
「企みというと聞こえが悪い。何か悪いことをしているようで。実際、そうなのだがな」
「岩田からの誘いが何度も来ております。それに乗られるのが得策かと」
「根岸様を裏切れと」
「それしか当家が助かる道はありません」
「簡単な企み。企みとは言えん」
「しかし根岸様からみれはそう見えましょう」
「根岸様も諦めておるだろ」
「しかし、根岸様は根強いです。簡単には滅びません。出来星の岩田よりも」
「勢いは岩田の方にある」
「そうでしょ。だから早く味方になると岩田に伝えるべきです」
「よくある事じゃ。当家もそれしかないのか」
「まだ根岸様に未練がありますか」
「根岸様には世話になった。先代、先々代の頃からな。それを裏切るとなるとなあ」
「では根岸様と一緒に滅びますか。当家が根岸様に残っても岩田には勝てません。どうせやれましょう」
「しかし、一度裏切るとなあ」
「一度裏切った家は、また裏切ると」
「そうじゃ。だから岩田に寝返っても、信用してもらえんだろ。簡単に裏切ったのだからな」
「それで岩田からの誘いを伸ばしているのですね。簡単には裏切らないと」
「それもある」
「しかし、裏切ることにはかわりはありません」
「面倒じゃのう」
「早く岩田に返事をすべきです。このままでは敵に回します」
「どっちつかずはないか」
「ありません」
「では、これはどうじゃ。根岸様から離れる。根岸様の傘下から出る」
「そして岩田に与するわけですね」
「与しない」
「え」
「独立する」
「そして岩田に付くと」
「岩田とは同盟関係になる。敵対していないという程度のな。当然従属ではない」
「踏み潰されましょう」
「だから、そうならないように、同盟に持ち込む。岩田からの誘いには乗れないが、これに乗ってもらう」
「では、岩田と根岸様の戦いは高見の見物ですか」
「そうじゃ」
「どちらからも援軍の催促があるでしょう」
「無視する」
「それでは岩田が勝ったとき、当家の手柄は何もありません」
「根岸様が勝ったときもの」
「静観ですか」
「それに当家がどちらかについたとしても戦局には変わりないだろう」
「そうですねえ。兵が殆どいません」
「じゃろ」
「取るに足りぬ勢力。誰も相手てになどしておらんわい」
「では根岸様と岩田にはそのように計らいます」
「これがわしの企てじゃ」
「結果は分かりませんが、やってみましょう」
「うむ」
了
2024年07月04日
5257 肩の荷
「まあ、のんびりやりなさい」
「そんな、のんきな」
「それぐらいで丁度です」
「もっと、しっかりとやらないといけないほどです」
「何を」
「いろいろと」
「それじゃ休む間がない」
「いえ、休むときはしっかりと頑張って休みます」
「頑張って休むか」
「何事も精一杯やり抜くのがいいかと」
「それでどうなる」
「良くなります」
「そうだな。やった分、見返りも来る」
「そうでしょ。だからのんびりとやってられません」
「そういうのが好きなのか」
「はい」
「なら、仕方がない」
「そうでしょ」
「しかし、君の成績、あまり芳しくはない。悪いとは言わないがね」
「だから努力が足りないので、頑張っているところです」
「似たようなものだがな」
「はあ」
「どんぐりの背比べ。よく見れば差はあるが、全体から見れば似たようなもの」
「どんぐりの背比べの中でも一番高いどんぐりになりたいのです」
「だから、見た目、変わらんと言っている」
「しかし、私の中ではかなり違います。差があります。その差を埋めたいのです」
「しかし、君は低い方だ。だから長旅になるぞ。しかしそれほど変わらんのだから、そのままでもいいんだ」
「そうでしょうか」
「そうだよ。もっとのんびりやってもあまり変わらん。それなら疲れん方がいいだろ。それにギスギスしなくてもいいし」
「はあ」
「それに一日もゆったりと過ごせる。こちらの方がいいだろ」
「そんなこと、すすめないでください。風船がしぼみます」
「パンパンにはってなくてもいい。ゆるゆるでいい」
「はあ」
「その、気の張らん状態を標準にしなさい。すると楽になる」
「しかし、先が苦しくなるのでは」
「頑張って成果を出すと、そのあともっと頑張らないといけなくなる」
「おっしゃる意味が逆なのですか。もっと叱咤されると思っていました」
「叱っても褒めても同じ事」
「じゃ、私はどうすればいいのです」
「だから、そんな思い詰めた顔をしないで、楽になりなさい」
「それで通りますか」
「別に通らなくてもいいじゃないか」
「何という人だ」
「無視するか」
「いえ、それでいいのなら、肩の荷が降りました」
「大した荷じゃない。背負わなくてもいいほどだ」
「あ、はい。しかし、不安です」
「まあ、一度やってみなさい」
「はい」
了
2024年07月03日
5256 探し物
「探していたものは意外なところにある」
「はい」
「聞いておるのか」
「少し眠いです」
「わしの語りが鈍いというのか」
「いえ、鋭いです」
「じゃ、もう少し早口で喋ろう。いや、それ以前にまだ何も語ってはおらぬ」
「探していたものは意外なところにあると聞いただけで眠くなりました」
「その一撃だけでか」
「はい、十分眠いです」
「やはり睡眠不足じゃろ。眠いのは」
「いえ、しっかりと寝ています」
「じゃ、時間帯か。それとも食べたあとか」
「まだ、おやつの時間まで間があります。私ではなく、やはり師匠のお言葉がきついのです」
「きついとな」
「いえ、効くのです」
「声がか」
「いえ、言葉です」
「ここではないと思っていたところで見つかったりする。これは目が冴える話。意外なところだけに驚く。見つかるであろうと思っているところではなく、雑魚しかかからんような場所でな」
「寝てもいいですか」
「ああ」
「かすかに聞こえますので、続きをどうぞ」
「探すと言うことは何だったのか。そんな深いところまで行かなくても、こんな浅瀬にぽつんとあるではないか。これはどういうことなんだ」
「もう夢の中です」
「しかもその探し物。画期的なもので、大発見。こんなものがあったのかと思うほど凄いものだ。どうしてそうなったのか分かるか」
「最初から分かりません」
「それを落としたもの。捨てたのかもしれん。価値がないと思ってな。だから、そのものの値打ちを知らぬものがいて、軽く扱ったのだろう。それで誰でも見つけることができそうなとこにあった。これが種明かしじゃ。そういう意味だったんだよ」
「もう熟睡」
「聞こえておるのに、熟睡中とはこれ如何に」
「しかし、寝ながらの方が理解しやすいようです。かすかに聞こえてくる程度で」
「まあな。背筋を伸ばして聞くよりも、寝転んでおる方が背骨にいいのかもしれんのう」
「今朝のお話、よく聞けました」
「では、どういう話だったのか、要約しなさい」
「わ、忘れました」
「是非もなし」
了
2024年07月02日
5255 やらなくてもいいこと
やらなくてもいいこと
「やらなければいいことをやっていたような気がする」
「無駄なことをやっておられたと」
「最初は分かっていた。やらなくてもいいことだとな。しかし不思議と余裕があり、やってみてもいいと思いつき、やり始めた。その頃は全く無駄なことではなく、少しは役だったし、それにいい感じだった」
「楽しかったと」
「そうだな。楽しかったな。楽しいことなので別にやらなくてもいいのだ」
「楽しめると言うことでも意味がありますねえ。無駄ではありません」
「しかし、無駄は無駄。しなくてもいいこと」
「はい」
「それをやり出すと、増えてきた。やることがな。より、やりやすいとか、こっちの方がもっといいとか、さらに違う展開があることを知り、そちらにも頭を突っ込む。そのうち一寸やり出したことがいつの間にか増えた。やらなくてもいいことが増えすぎると、まるでそれをやらないといけないほどの位置を占めた」
「でもやらなくてもいいことだったのでしょ」
「数が増え、やらなくてもいいことのやることが増えた。結果やることが増えた」
「ややこしいですね。それら全部はやらなくてもいいことなんでしょ」
「やらなくてもいいことのやることが増えた」
「何とか理解します」
「そこで城を築いても地についておらん。だからいくら積み上げても無駄なこと。いらない城なのだからな」
「それでどうなりました」
「ふと、そのことに気付いた。その城作り中に問題が出てな。作れなくなった。これは解決する問題だが、その間、城作りは中止。そこで思ったのだ。何をしていたのかと。動いているときは分からなかったが、止まってみると気付くもの。こんなこと、本当はやらなくてもいいことなのだと」
「それは楽しみでもあるのでしょ」
「楽しむことが用事になりだしたのだ。だから少し苦しかった」
「本末転倒ですね」
「本気で城を作る必要はなかったのだ。一寸だけで十分だった。それなら負担も少ないし、楽しめる」
「それも別にやらなくてもいいことなんでしょ」
「負担がなければ、やってもやらなくてもいい。その程度の扱いがふさわしい」
「要するに楽しみすぎたのですね。結構なことです」
「ま、まあな」
了
「やらなければいいことをやっていたような気がする」
「無駄なことをやっておられたと」
「最初は分かっていた。やらなくてもいいことだとな。しかし不思議と余裕があり、やってみてもいいと思いつき、やり始めた。その頃は全く無駄なことではなく、少しは役だったし、それにいい感じだった」
「楽しかったと」
「そうだな。楽しかったな。楽しいことなので別にやらなくてもいいのだ」
「楽しめると言うことでも意味がありますねえ。無駄ではありません」
「しかし、無駄は無駄。しなくてもいいこと」
「はい」
「それをやり出すと、増えてきた。やることがな。より、やりやすいとか、こっちの方がもっといいとか、さらに違う展開があることを知り、そちらにも頭を突っ込む。そのうち一寸やり出したことがいつの間にか増えた。やらなくてもいいことが増えすぎると、まるでそれをやらないといけないほどの位置を占めた」
「でもやらなくてもいいことだったのでしょ」
「数が増え、やらなくてもいいことのやることが増えた。結果やることが増えた」
「ややこしいですね。それら全部はやらなくてもいいことなんでしょ」
「やらなくてもいいことのやることが増えた」
「何とか理解します」
「そこで城を築いても地についておらん。だからいくら積み上げても無駄なこと。いらない城なのだからな」
「それでどうなりました」
「ふと、そのことに気付いた。その城作り中に問題が出てな。作れなくなった。これは解決する問題だが、その間、城作りは中止。そこで思ったのだ。何をしていたのかと。動いているときは分からなかったが、止まってみると気付くもの。こんなこと、本当はやらなくてもいいことなのだと」
「それは楽しみでもあるのでしょ」
「楽しむことが用事になりだしたのだ。だから少し苦しかった」
「本末転倒ですね」
「本気で城を作る必要はなかったのだ。一寸だけで十分だった。それなら負担も少ないし、楽しめる」
「それも別にやらなくてもいいことなんでしょ」
「負担がなければ、やってもやらなくてもいい。その程度の扱いがふさわしい」
「要するに楽しみすぎたのですね。結構なことです」
「ま、まあな」
了
2024年07月01日
5254 既に引退
既に引退
坂上はあの手この手と、多彩な手を使っている。千手観音とはいかないし、有り難いものではない。人だ。仏ではない。
しかし巻上げという人はそんな手は使わない。仕事なり良い話は向こうから勝手にやってくる。だから方々に手を回し、いろいろと宣伝するようなことはしなくてもいい。勝手にやってくるからだ。
坂上はそういうわけにはいかない。向こうから来るわけがなく、こちらから行かないと無理。巻上げのようにやりたいが、それでは仕事も用事も入ってこないし、誘いもない。
その違いは何だろう。坂上はそれを知っている。坂上に人間的な問題があるわけではなく、巻上げよりも愛想はいい。まあ、愛想良くしないと仕事が入ってこないからだ。
逆に巻上げはいつも偉そうにしているが、これは地で、そういう人なのだ。あえて威張っているわけではなく、最初から偉いのだ。おそらく子供の頃からそんな感じだったに違いない。
巻上げは愛想良くする必要がないほど実力があるのだ。だから人が寄ってくる。またいろいろと利用されている。人望はないのだが、力があるので、巻上げを頼る人が多い。
だが、坂上には一切そんなことはない。力の差がはっきりとしており、好き好んで坂上を選ぶような人は希だろう。たまにそんな気まぐれを起こす人もいるし、また坂上のことをよく知らない人もいる。
坂上があの手この手で客引きするように手を打っているのはそのため。中にはひっかかる人もいるからだ。それでかろうじて坂上は生きているようなもの。巻上げとはえらい違いだ。
しかし、坂上はあの手この手と手を出すのを減らすことにしている。殆ど罠にかからないのと、効果がないためだ。愛想良くしてもしなくても似たようなもの。それなら顔の筋肉を休ませた方がいい。
「引退しようと思うんだ」
「え、まだ現役だったのかい。もうとっくにやめたと思っていたぞ」
「そういう影の薄さか」
「そこが坂上君のいいところで、僕らにも近い」
「巻上げよりも近いか」
「巻上げにはなれないが、坂上君にならなれる。でもなりたくないけどね」
「こういう集会をして、いろいろな人に来てもらい交流を広げようと思ったのだが、君だけになった。もう解散だ」
「丸見えだったからね。仕事ほしさの交流でしょ」
「見えていたか」
「バレバレだよ」
「要するに仕事のない人には人は集まらないと言うことか」
「気付くのが遅い」
「しかし、この業界、適正ではなかったかもしれん」
「合ってなかったのかい」
「最下位だからね」
「底辺中の底辺。ものすごく安定していたのに」
「それ以下の下のないベタ座りだ」
「そこにいる坂上君、一寸魅力的だったがなあ」
「さらし者だよ。見世物だよ」
「それでやっぱり引退」
「ああ、誰も乗ってこないし」
「残念だね。でもそれがいいかも。お疲れ様」
坂上が引退宣言をした途端、仕事が入ってきた。
という話は聞かない。
了
坂上はあの手この手と、多彩な手を使っている。千手観音とはいかないし、有り難いものではない。人だ。仏ではない。
しかし巻上げという人はそんな手は使わない。仕事なり良い話は向こうから勝手にやってくる。だから方々に手を回し、いろいろと宣伝するようなことはしなくてもいい。勝手にやってくるからだ。
坂上はそういうわけにはいかない。向こうから来るわけがなく、こちらから行かないと無理。巻上げのようにやりたいが、それでは仕事も用事も入ってこないし、誘いもない。
その違いは何だろう。坂上はそれを知っている。坂上に人間的な問題があるわけではなく、巻上げよりも愛想はいい。まあ、愛想良くしないと仕事が入ってこないからだ。
逆に巻上げはいつも偉そうにしているが、これは地で、そういう人なのだ。あえて威張っているわけではなく、最初から偉いのだ。おそらく子供の頃からそんな感じだったに違いない。
巻上げは愛想良くする必要がないほど実力があるのだ。だから人が寄ってくる。またいろいろと利用されている。人望はないのだが、力があるので、巻上げを頼る人が多い。
だが、坂上には一切そんなことはない。力の差がはっきりとしており、好き好んで坂上を選ぶような人は希だろう。たまにそんな気まぐれを起こす人もいるし、また坂上のことをよく知らない人もいる。
坂上があの手この手で客引きするように手を打っているのはそのため。中にはひっかかる人もいるからだ。それでかろうじて坂上は生きているようなもの。巻上げとはえらい違いだ。
しかし、坂上はあの手この手と手を出すのを減らすことにしている。殆ど罠にかからないのと、効果がないためだ。愛想良くしてもしなくても似たようなもの。それなら顔の筋肉を休ませた方がいい。
「引退しようと思うんだ」
「え、まだ現役だったのかい。もうとっくにやめたと思っていたぞ」
「そういう影の薄さか」
「そこが坂上君のいいところで、僕らにも近い」
「巻上げよりも近いか」
「巻上げにはなれないが、坂上君にならなれる。でもなりたくないけどね」
「こういう集会をして、いろいろな人に来てもらい交流を広げようと思ったのだが、君だけになった。もう解散だ」
「丸見えだったからね。仕事ほしさの交流でしょ」
「見えていたか」
「バレバレだよ」
「要するに仕事のない人には人は集まらないと言うことか」
「気付くのが遅い」
「しかし、この業界、適正ではなかったかもしれん」
「合ってなかったのかい」
「最下位だからね」
「底辺中の底辺。ものすごく安定していたのに」
「それ以下の下のないベタ座りだ」
「そこにいる坂上君、一寸魅力的だったがなあ」
「さらし者だよ。見世物だよ」
「それでやっぱり引退」
「ああ、誰も乗ってこないし」
「残念だね。でもそれがいいかも。お疲れ様」
坂上が引退宣言をした途端、仕事が入ってきた。
という話は聞かない。
了
2024年06月30日
5253 突発的
思わぬ事は日常の中で突然起こる。急に、何の伏線もなく。
しかし、ある程度予測していることだろう。それがいつか来ることを。そして前後の関係とかに関係なく、それだけが独立して起こる。
今日ではないだろう、今ではないだろうと言うところで起こるので、予想外とは思うが、いつか起こるだろうという予想はある。
だから、来たか、という感じで、それなりに納得がいけば是非もなしとなる。ごもっともなことで、思いつく理由があるのだろう。ただ、起きるまでは、理由は分からない。起こって初めて理由が分かるわけではないが、忘れていたりする。
ある日、突然起こったことで、日常が狂うこともあるが、それほど深刻なものでなければ、しばらくすれば何とかなるだろう。これは良性だ。あまり尾を引かないし、その後の影響もなかったりする。
単発的に起こったことは単発で、そこだけの一発ですみそうだ。連続性がない。これも良性の方だろう。解決方法がそれなりに分かっておれば、さらに良性。
予測し、備えに備えたことほど実際には殆ど起こらなかったりする。そして万が一の備えをしていない場合、そうなってもいいかと諦めているところもある。
突発ごとで日常が取り乱されることもあるが、全部ではなく、一部。全部なら大変な事態だろう。それこそ小変ではなく大変。
だが、そのことにより、今まで惰性でやっていたことを捨てるチャンスになるかもしれない。
そして以前から役に立たないと思い、放置していたものが、そんなとき役立つとかもある。
しかし、単発とは言え、何かの繋がりがあるかもしれない。ある時期と重なるとか。
その異変、何か、清めの効果が少しはあるのだろう。
了
2024年06月29日
5252 いつもの儀式
いつも通りに事が運ぶと、それなりに満足。
倉橋はそう考えているが、これは満足とまではいかないが、事なきを得ただけでも十分だろう。いつも通りがいつも通りのようにならないこともある。
いつもよりも待たされるとか、いつもよりもすいているとか。後者はいいが前者は一寸。
しかし、目的を果たせたのなら、それはいつも通り。何かの都合で果たせないで終わったのなら、いつも通りとはならない。
ただ、それは本当に必要だったのかと、負け惜しみのよう倉橋は考える。それにより、いつも通りでなかってもよかったのだと思いたいから。そして果たせなかったとしても、その後の影響はなく、翌日、昨日の分も果たせれば帳消しになり、穴が埋まる。
しかし、嫌々ながらやっているいつも通りのこともある。もう習慣化し、それをやらないと調子が狂うとかだ。
これはやらなくてもいいことかもしれない。またそういう風に持って行きたい。なぜなら嫌々やっていることなので、このいつも通りはパスしたいところなのだ。
だが倉橋は深読みする。嫌々だが、ずっと続けていることは、何処かで役立つのではないか。辛抱してやっていた甲斐があとで出るとか。
ただ、倉橋の経験から、そんな例は殆どない。だが、これを続けていたおかげでというのを期待したりする。だからもうマジナイのようなもの。
逆に悪習もあるだろう。それは途中でやめることが多い。ただ、悪習だと世間では思われているが、倉橋にとり、それはいい習慣かもしれない。それをやることで、何処かで支えられているような。これもマジナイに近い。
それを考えると、日常やっているいつものことも全部マジナイで、ただの儀式かもしれない。それは飛ばしすぎだが、儀式になっていることが結構ある。
ただ、日常的な、いつも通りは勝手にそうなっていったと言うことが多い。流れとして、そうなるような。
だから、それが絶対的なものではなく、とりあえずそれをやっている程度。やらないと日常が崩れるし。
昨日と同じようなことを今日もやる。それほど難しい問題ではなく、普通にできること。
しかし多少のズレもあるし、狂いも出る。トラブルも起こる。だからほぼ昨日と同じ事の繰り返しができただけでも、それなりの満足を味わえると言うことだろうか。
無事に一日が終わったと。
倉橋は寝る直前にやる儀式がある。それは電気を消すことだったり、一寸片付けをする程度の簡単なものだが、その日、最後の儀式。このとき、無事に一日を終えたと、少しは思う。
それがたとえ何でもない日であっても。
了
2024年06月27日
5251 田村を舞う
田村を舞う
「思ったよりも良かったりする」
「それは良かったですねえ」
「そこまでできるとは思っていなかった。どうせしくじるだろうと諦めていたのだが、上手くやり遂げた。これは嬉しい。期待していなかったことなのでな」
「危ないと知りながら、なぜ田村に命じたのですか」
「誰がやっても危険。上手くやれるような奴はおらん。だから田村でもいいのだ。選ばなくてもな」
「しかし、上手く成し遂げたのですから、儲けものですね」
「意外と田村はできる奴だった」
「どうして田村を選ばれたのですか。誰でもいいのなら他にいくらでもいますよ」
「何かよく分からん奴なのでな」
「得体の知れない奴だと」
「いや、これというものがないだけ」
「はあ」
「誰でもいいとき用かもしれん」
「何でもいいときは田村ですか」
「いや、田村でなくてもいいのだが、使いやすいのだ」
「はあ」
「思い入れがない。それに田村がどんな奴か知らん。何も思っていない。ただ、田村がいることは知っておる。その程度の知り方」
「今回の仕事、適任だと見込み、選ばれたのではないかと思いましたが、違うのですね。誰でも良かったのですね」
「誰でも良い場合、田村が浮かんだ。それだけだ」
「今回、田村は大手柄」
「見直さないといけないが、何でもないただの田村の方が扱いやすかった」
「他のものがやっても、失敗するようなことです」
「いや、田村ではなく、細川にやらせてもやれていたかもしれん」
「でも、難題でしょ」
「つかみ所のない問題程度じゃ」
「それで一番つかみ所のないような田村に」
「つかみ所のないことをつかみ所のない奴にやらしたわけではないがな」
「でも田村は大手柄。良かったです。私も田村を見直しました」
「今後使いにくくなるのう」
「あ、はい」
了
「思ったよりも良かったりする」
「それは良かったですねえ」
「そこまでできるとは思っていなかった。どうせしくじるだろうと諦めていたのだが、上手くやり遂げた。これは嬉しい。期待していなかったことなのでな」
「危ないと知りながら、なぜ田村に命じたのですか」
「誰がやっても危険。上手くやれるような奴はおらん。だから田村でもいいのだ。選ばなくてもな」
「しかし、上手く成し遂げたのですから、儲けものですね」
「意外と田村はできる奴だった」
「どうして田村を選ばれたのですか。誰でもいいのなら他にいくらでもいますよ」
「何かよく分からん奴なのでな」
「得体の知れない奴だと」
「いや、これというものがないだけ」
「はあ」
「誰でもいいとき用かもしれん」
「何でもいいときは田村ですか」
「いや、田村でなくてもいいのだが、使いやすいのだ」
「はあ」
「思い入れがない。それに田村がどんな奴か知らん。何も思っていない。ただ、田村がいることは知っておる。その程度の知り方」
「今回の仕事、適任だと見込み、選ばれたのではないかと思いましたが、違うのですね。誰でも良かったのですね」
「誰でも良い場合、田村が浮かんだ。それだけだ」
「今回、田村は大手柄」
「見直さないといけないが、何でもないただの田村の方が扱いやすかった」
「他のものがやっても、失敗するようなことです」
「いや、田村ではなく、細川にやらせてもやれていたかもしれん」
「でも、難題でしょ」
「つかみ所のない問題程度じゃ」
「それで一番つかみ所のないような田村に」
「つかみ所のないことをつかみ所のない奴にやらしたわけではないがな」
「でも田村は大手柄。良かったです。私も田村を見直しました」
「今後使いにくくなるのう」
「あ、はい」
了
2024年06月26日
5251 老兵は猿
「老兵は去るじゃ」
「老兵は猿なのですか」
「老いれば猿になればどうなる」
「小さくなります」
「まあ赤子も猿に似ておるし、どの年代のものも猿だと思えば猿に見えてくる。ああ、ああいう猿がいそうだとな」
もっと分けると、チンパージやゴジラに近かったりする。
「高橋様もそろそろ去るおつもりですか」
「馬に乗れんようになったのでな」
「輿ならいけます」
「落ちそうじゃ。それに担ぎ手は四人。気の毒じゃ。逃げ遅れる」
「そんなときはどうなされます」
「先に担ぎ手が逃げるだろう。輿が傾いたりするやもしれん。四人同時に輿を下ろして逃げてくれればいいのだがな。傾いたときが難儀。まあ、それで上手く降りるだろう。いきなり輿が傾くわけはない。見ておる目の前で担ぎ手が輿を捨てる様が見えるはずなので、どちらに傾いたのかは分かる」
「はい」
「それであとは歩いて逃げる。鎧兜では走れん」
「歩けるのですね」
「馬に乗れんだけ」
「はい」
「まあ、戦うときは馬から下りるが、指揮をするときは馬上からの方がいい。見晴らしも効くのでな」
「輿では低いと」
「それと遅い」
「そうですねえ」
「木から下りた猿。馬から下りた老兵と同じかも」
「お世継ぎがいるので、心配ないですね」
「既に家督は譲っておる。だから隠居なのじゃ。しかし、心配なので、戦場には出ておる」
「しかし、よく生き延びましたねえ」
「数々の戦場を走り回った。幸い無事。無理をせんかったからじゃ。しかし武功は少なく、ないと言ってもいい。しかし手柄を立てるには危険なこともやらねばならぬ。それが怖くてな」
「それで、去られたあとは」
「ああ、戦記を書こうと思っておる。わしほどいくさに出た武将は少ない。それを思い出して書き記す」
「それはよろしいかと」
三沢惣右衛門の三沢物語は世に出ないまま行方不明。子孫がなくしたらしい。
了